二度目の合体
俺はかつてギシカと一度合体した。
その時感じたのはギシカの胸の内に潜む切なさだ。
母親が仕事で忙しくて、その分俺達に依存してしまう。
そんなギシカの心境だ。
(ギシカ、落ち着け、ギシカ)
俺達は一つの身体となって、その場に立っていた。
途端に感じられたのは、混乱。
置き場のない気持ち。
不安定さ。
叫び出したいような気持ち。
(何を混乱している? 落ち着け、ギシカ!)
濁流のように思いが流れ込んでいた。
愛への恨み言。
愛への憎しみ。
そして、愛への愛情。
相反する二つの気持ちは何故生まれた?
(落ち着け、俺と一緒に整理していこう)
心の中のギシカに言う。
(私に触れないで!)
合体が解かれる。
俺とギシカは弾き合うように二つに別れていた。
「ギシカ、落ち着け!」
「ぐ、ぐ、ぐう……」
ギシカは辛うじて理性を取り戻したようだ。
苦しそうに、自らの口を抑えている。
絶望したようなその表情が、言葉を紡いだ。
「私、悪い子だ……」
呟くように言う。
「お前は悪くなんかない! 愛と対立したのもお前のせいじゃない!」
俺はそう叫んでいた。
見えていた。愛とのやり取り。
俺を取り合う二人の姿。
「落ち着け、ギシカ! 思考を巡らせてみろ! 何故お前はそんな心境になる?」
俺は粘り強く言う。
ギシカは視点を上下させながら呟く。
「私は悪い子、私は悪い子、私は悪い子――」
また錯乱状態に戻ってしまった。
こうなっては悪霊が目覚めた状態にいつ戻るかわからない。
愛を守らなければ。
しかしギシカに傷をつけるわけにはいかない。
なんて袋小路。
咄嗟の判断で俺は縮地を使い、ギシカの鳩尾を殴った。
唾液を吐き、ギシカは倒れる。
「最初からこうしとけば良かった」
緊張が解けるのを感じながら言う。
ギシカは気絶して、その場に項垂れて倒れ込んだ。
その体からは、悪霊憑きの気配が依然として感じられているのだった。
つづく




