何故
「なんでお前が……?」
俺はショックを受けた。
ギシカは俺の従姉妹だ。幼い頃からの友人だ。
それが何故、悪霊憑きなどになっている。
悪霊は基本心に隙がある人間にしか憑かない。
しかし、彼女は厳しい母の元、自分を律した人間として育ってきたはずだ。
それが何故?
「春武」
愛が叱咤するように言う。
俺は我に返った。
「ギシカ、屋上に来てくれ」
「……別に、良いけど」
俺の背後にいる愛に一瞬視線を向けて、不服げに言う。
そして、俺達は屋上に出た。
「ギシカ」
「何?」
「お前に何があった?」
その一言に、ギシカは唖然とすると、頬を染めてそっぽを向いた。
「何も、ないけど」
(なんで頬を染める?)
俺は困惑するしかない。
「お前、自分の状況わかってるのかよ」
思った話と違ったらしい。ギシカは怪訝そうな表情になる。
「なになに、なんのこと?」
「気付いてないのかよ、お前……」
そこまで言って躊躇う。
ただでさえ悪霊が憑いて不安定になっているギシカにその事実を伝えて良いものか。
しかし、言うしかあるまい。
そうしないと、話は前には進まないのだ。
「お前、悪霊憑きになってるぞ」
「え」
その瞬間、ギシカの背後が歪んだ。
黒い影が、テレビノイズのようにザッと走った。
「私が? 悪霊憑き?」
ギシカは自分の体を抱きしめる。
「そんな、なんで……」
ギシカは戸惑うように確認を繰り返す。
そして、察したらしい。
自分には本当に悪霊が憑いていると。
「確認したい。お前を斬っても退魔の長剣なら大丈夫かと」
「なんで、なんで、なんで」
ギシカは混乱しているようだ。
俺は焦った。
このままでは、ギシカは本当に。
「落ち着け、ギシカ。俺達でなんとか対処できるはずだ」
ギシカは、目を閉じた。
その瞼から、涙が一筋落ちた。
「ごめんなさい、お母さん」
そう呟くと、ノイズは大きくなっていく。
そして、彼女が再び目を開いた時、そこに理性の光はなかった。
つづく




