エイミーの東京初日放送
「なんか胃に負担のかかる一日だったわあ」
エイミーの雑談放送に、お疲れー。お疲れ様ー。王子様どうだったー? 等のコメントが付く。
同時接続数は三万人超え。注目度の高さが伺える。所謂野次馬根性だが。
「ラーメン二郎? の野菜マシマシラーメンに暴君ハバネロ。けど暴君ハバネロは癖になるね。箱買いしたい」
気に入ってるじゃねーかと俺は心の中だけで突っ込む。
王子様とはどうだったのさー。焦らすなよー。小さな騎士は紳士だった? 等のコメントが次々につく。
エイミーは苦笑する。
「急かすな急かすな」
そう言ってペットボトル飲料に口をつけて、飲んだ。
期待を煽る完璧な間。
計算され尽くした二百万の世界。
「出会いは完璧だったね。私は編み上げた髪に浴衣。彼はサングラスに黒い服」
それじゃ相手不審者じゃん。なんてコメントが多数つく。誰が不審者じゃい。
「思わず抱きついてくるくる回転。ディズニープリンセスの気分だったわ。彼が初めて手を繋いでくれた時の格好でね。そこがクライマックス。って感じ。あとは急降下。ぎゅーん」
そう言って、ジェットコースターの波を腕の動きで再現する。
それは登ることのない下り坂だったが。
「まずラーメン二郎に連れて行かれて激盛りのラーメンを食わされ……いや、二郎が悪いとは言わないよ、美味しかったもん。けど初心者に勧める量ってもんがあるよね。で、その次はスマブラ大会。エイミーその後の東京スカイツリー一人観光ツアーぐらいしか東京観光してないんだよ? ちょっとちょっとだよねえ」
うわあ。所詮高校生のガキよ。夢から覚めてよかったね。なんて現実的なコメントが付く。
まあ、そう思われたくてやったので悔いはないのだが、若干悔しいのはなんなんだろう。
「けどね、エイミーこう思うんだ。彼は私を普通にもてなすわけにはいかないんだろうなって」
コメントがざわつく。
「姫君にも悪いし、何より上級生には素直だけど同級生には捻くれた奴だったんだよ。帰ってきて嬉しいなんて言ってくれるわけない。だから、エイミーは期限ギリギリまで頑張ろうと思います」
俺は黙り込んだ。
エイミーが、ここまで粘るとは、思ってもいなかった。
てっきり、子供っぽいってバッサリ切り捨てて、次に行くものだと思っていた。
エイミーの思いは、俺が思っていたより深かった。
「聞いてる? 岳志。愛する君へ、日本語で。じゃあ、バイバイ!」
そう言って、短い放送が終わる。
スーパーチャットが乱舞する。
最初の頃はエイミーを横から割り込んだ泥棒猫のように語る論調が多かったが、最近はその真摯さに意見が覆りつつある。
先輩派とエイミー派、半々と言った感じだ。
「……流石にぼっちにするのは可愛そうだよな」
俺はポツリと呟く。
「そうだにゃあ。けど、だから岳志の周りから女の子は消えないにゃね」
俺は生まれて初めてこの駄猫から教訓じみたものを得た気がした。
続く




