逆襲の時
地面に叩きつけられそうになるが、その瞬間受け身を取ってその場を離れる。
内臓へのダメージが深い。
俺の魔力で身体能力向上術を使っていながら歩行も苦しくなるほどのダメージ。
(この親父、どれだけ……)
呆れ混じりに思う。
どれだけの魔力なのだ、と。
それだけではない。読みも一級。
その瞳には、刹那や部長や先生と同じく、俺の見えていない景色が見えている。
死線を潜った者の目。
(認めるしかない。今現在、俺は親父に負け……)
そこまで考えて思い留まる。
安易に逃げるな。
立ち向かう気力を忘れるな。
「お前にはまだ足りていないな」
親父は淡々とした口調で言う。
「俺が今斬りつけていれば勝負は終わっていた。その覚悟が全然足りない」
即座に反撃に移る。
よろける足を励まして縮地を使い、相手に肉薄する。
「単純に安易だ」
顔面を掴まれて、地面に叩きつけられる。
「ん~ん~!」
口を掌に塞がれて声にならない。
マメを何度も潰したような分厚い掌だった。
「誰もお前が死ぬことなど望んではいない。お前の敵は心にある」
俺は解放されると、後退して距離を取る。
今の会話の間にダメージが若干和らいでいた。
(まだ走れる)
親父は両手をだらりと下げた自然体で俺を見つめている。
何故か寂しげな、そんな目に見えた。
「何故そんなに行き急ぐ?」
親父は問う。
俺は、初めて、思考の時間を与えられた。
咳き込む。
血反吐を吐いていた。
「俺も刹那も遥も、お前の死など望んでいない。それをあらためて考えるべきだ」
俺は血を拭い、脱力すると、息を整える。
そうか、これが親父の狙いか。
苦笑する反面、苛立たしくもある。
(説教されてる。あの、親父に)
俺を放り出してアメリカへ行ってしまったあの親父に。
高説を垂れられている。
「高説結構。染み入った」
そう言って俺は退魔の長剣を持った片手を上げる。
「けど、俺にも刹那と積み上げてきた時間がある。ここはあんたにどうしても負けてもらう」
そう言って、俺は親父を睨んでいた。
自分の命を天秤にかけていた。そんな自覚が湧いてきた。
リスクも知らずに命をベットする無謀なギャンブラー。
それが今までの自分。
そう自覚すると、死線を潜った者特有の景色が見えてきた気がした。
「――良い目だ」
親父は微笑んだ。
俺は呼吸を整えつつ、逆襲の時へのタイミングを図っていた。
つづく




