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ギシカが必要だ

 ギシカが必要だ。

 強くそう思った。

 合体した時の爆発的な身体能力。

 今はあれが欲しい。


 しかし、ないものねだりをしていても仕方ない。

 俺は莫大な、しかし今の先生の前では心許ない魔力を振り絞って身に纏う。

 六階道家伝来の身体能力向上術だ。


 俺の魔力は吸われないだろうか。そんな不安が一瞬湧く。

 しかし、俺の魔力が喰えるなら前回の対峙時に喰われているはずだ。


「逃げなさい、春武」


 そう言って、刹那はふらつきながら俺の前に立つ。

 それを俺は、片手で突き倒す。


「怪我してる奴は倒れてろ。俺がやる!」


「クソガキ……」


 刹那は苦々しげに言う。


「俺が、やる!」


 宣言する。

 現状では抵抗は不可能だと考えたのだろう。刹那が口を紡ぐ。

 そして、せめてもの反発とばかりに呟いた。


「クソガキ」


「ハハハハハ、庇い合う姿、懸命よな」


 先生は歌うように言う。


「なにかおかしいか?」


 俺は獣の眼光で先生を射抜いて言う。

 先生は少しばかり、気配を変えた。


「ふむ、辰巳達も追いついてくるな。この局面、万が一があってはならない」


 呟いて、拳を引っ込める。


「ここは君達を見逃してあげようじゃないか」


「……始末するぐらいわけないだろう」


「春武!」


「俺は情けをかけられるほど落ちぶれちゃいねえんだよ!」


 半ば自棄だった。

 努力すれば順当に結果が出た。それが今までだった。

 初めて目の前に立つ不条理。それが先生だった。


「……クソガキ」


 刹那は呟いて、腹を抑えて苦悶の声を上げる。


「次に会う時は君の上質な魔力も喰らいたいものだな」


 そう言うと、先生は不敵に微笑み、俺に背を向けて跳躍していった。

 辰巳達が追いついてくる。


「先生は?」


 俺は脱力して、その場に座り込んだ。

 命のやり取りをしていた。

 そんな実感が遅れてついてくる。


 先生が気を変えねば、死んでいた。

 そんな事実が今更に恐ろしかった。


「行ったよ。俺に情けをかけてな」


 自棄の残り火が消えぬように言う。

 ギシカが必要だ。

 俺は強くそう感じていた。


 絶対にリベンジしてやる。

 これは俺がどん底の敗北から立ち直る物語だ。



つづく


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