刹那、敗北
俺は刹那の後を追って跳躍した。
後方にちらりと黒髪の美少女が見えた。
可愛い。
咄嗟にそう思い、慌てて自分の頬を抓る。
俺が大好きなのはアリスだ。間違ってはいけない。
今頃刹那が黒幕を始末している頃だろう。
そう思い呑気に着地した俺は、周囲の魔力を探知し始めた。
刹那。霊力と魔力を同時発現したその力は爆発的なものだ。
その力が小さくなっていき、別の者へと移っていく。
俺は混乱しつつも、町中を跳躍した。
着地すると、刹那の拳が先生の腹部に突き立てられていた。
しかし、先生は微動だにしない。
刹那は唖然とした表情で自分の拳を見ている。
「これが喰らいたかった。天然の魔力。悪霊憑きにはないものだ」
先生はそう言って歪んだ笑みを浮かべると、刹那に拳を叩き込んだ。
刹那は吹き飛ぶ。
その体から、魔力は感じられない。
刹那の魔力を喰った。
直感的にそう悟った。
元々、刹那は半神の末裔。
その天然の魔力は高い。
親父も莫大な魔力を持つが、それは後付のものだ。
クーポンという特殊な環境下でのみ発動する神の御加護。
しかし刹那は天然の魔力を有する。それも莫大な。
それを喰らった先生は、今や大きく、巨大な異形の存在に見えた。
俺は刹那を背後にして立つ。
覚悟は決まっていた。
刹那を、育ての母を、守る。
混乱する頭を整理しつつ、それだけを覚悟した。
自分が犠牲になることも厭わない。そんな決意があった。
つづく




