春武無双
鬼瓦部長はきっと空を睨んだまま、硬式球を軽く上空に投げるとバットで痛打した。
鋭い打球が虎男の腹に突き刺さる。
子供なんて単純なもので、それに勇気づけられたらしく手近な硬式球を投げる、投げる、投げる。
悪霊憑き達は戸惑うように侵攻を止めた。
ダメージはないらしいが、自分達に怯えない人間達に戸惑っているらしい。
竜人が呆れたように部長の傍に降り立った。
「お前を殺ればガキ共も震え上がるだろう」
そう語っている最中にも部長のバットが敵を襲う。
頭部への迷いのないフルスイング。
相手は目をパチクリとさせた。
俺も飲まれていた。
鬼瓦部長の胆力は本物だ。
彼の瞳にもまた、俺が見たことのない景色がある。
俺は苦笑すると、鞄の中から退魔の扇子を取り出し、長剣へと変化させた。
そして、縮地で移動して竜人を断った。
対魔特攻。
霊的生物にのみ力を発揮するこの長剣は、本体へのダメージなしに悪霊だけを薙ぎ払う。
黒い影が抜けたと思うと、竜人は人に戻ってその場に失神した。
「後のことは考えてるのー?」
場馴れしたらしく愛が呑気な口調で訊いてくる。
そうだ、俺の縮地も、退魔の長剣も、秘匿すべきものだ。
子供達も、鬼瓦部長も、手を止めて、唖然とした表情で俺を見ている。
「後は退魔連にでも任せる」
投げやりにそう言うと、俺は上空の三体も一気に叩き切った。
悪霊憑き程度には負けない。
問題は先生だ。
「まさか飛行能力まで得るとは驚いたわ。そうとう魔力との融和が必要なのに」
刹那が顎に手を当てて考えつつ近づいてくる。
そして、ふと気づいたように斜め上に視線を向けた。
「そこね」
そう言うと、刹那は高々と跳躍して町中へと消えていった。
「何がなんだか」
子供の一人が呟くように言った。
「……どういうことだ、六階道」
鬼瓦部長にじろりと睨まれ、俺は小さくなるしかなかった。
「ごめんなさい、後で!」
刹那の後を追う。
帰ってくる頃には陰陽連の秘匿部隊が到着しているだろう。
俺も場馴れしたのか呑気なものだった。
つづく




