修行再開
朝の河川敷を走る。
まずは俺がへばる。
次に霊力を体力に回している辰巳と翔吾がへばる。
最後まで息も切らしていないのはハーフデビルのギシカだけだった。
「ギシカちゃん体力オバケ……」
翔吾が呆れたように言う。
「こいつは半分悪魔だからな。ベースが俺達と違うんだ」
俺は苦々しい思いを込めて言う。
「お前はなんで魔力を体力に回さないんだ?」
辰巳が脇腹を押さえて不思議そうに俺に問う。
「癖になるからな。なんかあった時にふっと魔力が漏れると困る」
俺も脇腹を押さえながら答えた。
「莫大な力を持つ者は持つ者の苦労があるんだな」
辰巳は呆れたような口調だった。
「莫大ってほどでもないさ。俺の母親は一般人なんだ」
「けど、岳志さんは神秘のネックレスを使えば莫大な魔力を持っているんだろう?」
「まあ、けどつけてなければ昨日の通りだ」
千紗には昨日、謝られた。
「探知の精度が低かった。確かに悪霊憑き一歩手前の人間が何人もいた」
千紗でも気づかないほどだ。そう言われれば仕方ないだろう。
今後は細心の注意を込めて動こうと示し合わせた。
親父には頭を撫でられた。
少し情けない気持ちになる。
そうされると和む自分がいるからだ。
自分を放りだしてアメリカに行った親父なのに。
そう思うと複雑な気持ちになる。
「春武、お腹痛いの?」
ギシカが不思議そうにかがみ込んでくる。
「お前と違って脇腹にきてるんだろう。俺もそうだ」
「けど辰巳、春武の表情、ちょっと、変」
ギシカが顔を近づけてくる。
俺は動揺して、その額に額をぶつけた。
俺だけが痛がった。
さすがハーフデビル、頑強さが違う。
「気のせいだ、気のせい」
なんかギシカが今日はおかしい。
やたらと気を使ってくる。
ランニング中も何度も声をかけてきたし、内向的なこいつにしては珍しい。
そう思いつつ、着替えて朝の登校に向かった。
愛が来る前だ。
あいつ、後から怒らないと良いけど。
そう思いつつも、ギシカが出たがったので付き合うことにする。
「あのね」
ギシカが、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「なんだー?」
「春武ってすっごい努力してきたんだね」
俯きつつ言う。
「まあ、六大名家の当主に幼少期から鍛えられたからな」
「うん。その力も、野球能力も、すっごい努力の上にあったんだなって昨日記憶が流れ込んできてわかったんだ」
なんか変だな。
そう思いつつ歩く。
「そんな春武を、私はかっこいいと思う」
ギシカがぽつり、と言う。
俺は、足を止めた。
(まさか、こいつ……思春期か?)
ギシカも動揺する俺も紛れもなく思春期だった。
ギシカはいつも通り俯いていて、表情は見えない。
つづく




