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混乱

 悲鳴が上がった。

 マウンドの親父が怪我をして、観客席には狼男が現れる。

 周囲は混乱の渦だ。


 陰陽連の隠蔽工作もどこまで通用するかと言った感じだ。

 俺は引きずられ、牙は徐々に俺を押していく。


「早く外へ! 先生を確保するんだ!」


「けど、春武が!」


 愛が迷うように言う。


「行け!」


 俺は怒鳴った。

 駆け足の音が聞こえて遠ざかっていく。

 どうやら行ってくれたらしい。


 狼男の押しが緩んだ。

 ギシカが狼男の頬を殴ったのだ。


 キレたら手が付けられないギシカも通常時ではそれなりの身体能力に留まる。

 それでも体力測定では手加減を強いられているが。

 だが、狼男は微動だにしない。


「……やるよ、春武」


 ギシカは腹を括ったように言った。


「ああ、出すなら、ここしかないな」


 俺とギシカは魔力を同調させる。

 確かに、言われてみると似通った魔力の波長だ。

 それが徐々に一つになる。


 気がつくと、俺とギシカは一つになっていた。

 ギシカの記憶が鮮やかに脳裏に浮かぶ。

 六華への愛情。しかし忙しい母に構ってもらえない寂しい日常。俺達といる間の安心感。

 そんなことを感じていたのか、と苦笑交じりに思う。


 俺は、狼男を跳ね飛ばしていた。

 勝てる。そんな確信があった。



つづく

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