508/611
全ては先生のため
「随分井上投手に恨みがあるみたいだな」
俺は相手の手をしっかりと掴みつつ言う。
魔力をフル回転して腕力を強化する。
これで確保した。
相手は苦笑した。
「井上投手なんてどうでも良いさあ。全ては先生のため」
そう、彼は断言した。
「先生が、井上投手の殺害を企てたってのかよ?」
「いやあ?」
相手はへらへらと笑う。
「僕が井上投手を怪我させる。救急車が飛んでくる。そこを先生が確保する。そういう手はずさ」
「なんだと……?」
「まあ、君はここで死ぬんだけどね」
そう言うと、彼の顔が狼に変わった。
魔力が展開される。
「悪霊憑きよ!」
遅れて間に合った愛が叫ぶように言う。
「見りゃわかる!」
俺は怒鳴り返すと、退魔の長剣を展開して相手の牙を受け止めた。
「お前らは外へ行け!」
「けど、あんた一人じゃ」
「先生が……いる!」
俺は驚嘆していた。
足を、引きずられている。
俺の腕力が、負けている。
霊気と悪霊憑きの合せ技、これがどうやら相乗効果を持っているらしかった。
つづく




