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遺伝子

「これから井上選手を護衛するわけだが」


 翌朝、電話口で辰巳が言う。


「ってことは徹底密着ってことだよな? 球団練習とか見れるのか?」


「残念ながら千紗が秘書という体で追って回ってる。俺達の出番は呼ばれてからだ」


「なーんだ」


 あからさまに落胆した様子の辰巳である。


「けど試合の無料チケットはもらえるらしい。球場で観戦しつつ護衛ってことになるな」


「マジで? 俺巨人ファンじゃないけど鞍替えしちゃおっかなあ」


「現金な奴」


 思わず正直な感想を言う。

 思ったより単純な奴だ。


「遠征とかはどうするんだよ?」


「そこは陰陽連の術師がゲートを作る。けど基本的に東京が主戦場になると刹那は見てるよ」


「なんでだ?」


「先生の活動範囲が東京でしか確認できないからだ」


 辰巳は数秒黙り込む。


「いい人だと思うんだけどな」


「けど、昨日の奴をけしかけたのは先生なんだぜ」


「確かにそうだけどよお……ところでお前と愛って子どういう関係なんだ?」


「親戚みたいなもんだよ」


「なら合体できるかもしれんぜ」


「ああ、あれって血縁とか関係してるのか」


「俺と翔吾は従兄弟だ」


 なるほど、そこまで血が近いと合体できる可能性が出てくるわけか。


「つーと俺とギシカだな。俺の魔力をギシカの身体能力で強化できるのは強みだな」


「あの大人しそうな子か?」


「翔吾に訊いてみ。暴れたら凄いから」


 本当にキレると後先考えないんだあいつは。


「ちょっと合体について詳しく教えてくれよ」


「良いぜ。じゃあ今日の夕方俺達のチームに来いよ。翔吾も来るから説明してやるよ」


 そろそろホームルームの時間だ。場所だけ確認して示し合わせて電話を切る。

 丁度目の前をギシカが友人らしき少女達を連れて歩いていったので声を掛ける。


「ギシカ」


「なあに、春武。気配は消してないよ」


「俺と合体してくれ」


 ギシカの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「馬鹿!」


 ギシカの一撃が俺の腹を見舞った。

 目眩を覚えつつ血を吐く。

 魔力で咄嗟にガードしてなかったら貫通していたな。


 ギシカは脱兎のように逃げていった。


(俺、なんか変なこと言ったか?)


 数秒考えて、答えに思い至る。

 思春期の少年少女がイメージする男女の合体。それはつまり……。


(親父と違って雑なんだよなあ俺は)


 溜息を吐く。ラインで説明しなければ。

 そして、漏れ聞こえる六華嬢の若き頃の暴走癖を、ギシカは脈々と受け継いでいるのだと認識する一幕だった。

 悪魔とのハーフだから、と言うだけではあるまい。


 まったく遺伝子って恐ろしい。



つづく




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