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蹴飛ばした
俺は縮地で追いつくと、魔力で強化した足で車を蹴っ飛ばした。
前転する車。上に地をついて鈍い音を立てて滑っていく。
軽いものである。
朝飯前だ。
俺は歩み寄り、窓から中を見る。
ギシカが這い出てきた。
案の定中は血の海だ。
「……吃驚して暴れてたらなんか皆静かになっちゃった」
「それ多分気絶してるな。頭は打たなかったか?」
「うん、大丈夫」
悪魔の血が目覚めた時のこいつの腕力は恐ろしいものがある。
前にも人間の手をひしゃげさせていたし、底知れない。
問題は常時その状態を保てないということだが。
パニックになったり怒ったりしないとその状態に移行できないのだ。
移行したら後は満足するまで暴れ尽くす。
タチの悪い酔っぱらいみたいなものだ。
「愛呼んでヒールしてもらお。人死になったらマズイ」
「春武も相当無茶したよ。誰かに見られてたらヤバいんじゃない?」
「……確かに」
焦ってたとは言え後先考えないことしたなあと思う。
周囲を見渡す。
見知った顔と、目があった。
「あ」
異口同音だった。
駅で辰巳と一緒にいた少女と俺は、そう呟いていた。
つづく




