新生活
転校手続きも終わり、俺は新たな学校に通うことになった。
着慣れないブレザーの制服に身を包んだ自分を鏡で見る。
「……孫にも衣装だな」
我ながら違和感がある。
しっくりこないというかなんというか。
まあ、これも慣れないといけないだろう。
ギシカと顔を突き合わせて料理を食べる。
「妾の手作りじゃ。感謝せよ」
アウラが偉そうに言って皿を置いて去っていく。
と言ってもハムトーストと塩コショウを振った卵焼きぐらいなのだが。
ギシカは慣れたものなのかそれを文句も言わず食べていく。
これじゃあ力が出ないなあ。
叔母の六華は食育に力を入れているとのことなのでバランス配分完璧な料理が出てくるかと思っていたからこれは誤算だった。
「おはようございまーす」
玄関から愛の声がする。
「毎日迎えに来てるの?」
気の弱いギシカとせっかちな愛は馬が合わないだろうと思っていたのに、意外なマメさだ。
「……ううん、今日が初めて」
ギシカは戸惑うように、控えめに言った。
「おう、愛か。入るが良いぞ」
アウラは相変わらず偉そうだ。
元竜族の姫と言う与太話を俺は俄に信じたわけじゃないが、十数年前の写真から少しも老けていないのは事実だ。
愛がダイニングに入ってくる。
「アウラさーん。この料理じゃ駄目だよ。六華さんと相談して朝食作ったげて」
愛が見るなりそう言った。
「お、そうか?」
「プロ野球選手目指すんだよ? もっと食わせないと」
「ふむ。しかしこやつの父はあずきの料理量に閉口していたというが」
「それは極端な例だよ」
愛は淡々と言うと、ギシカの横に座った。
「わかった、しばし待っておれ」
そう言うと、アウラは追加で料理を初めた。
思わず、感謝の眼差しで愛を見る。
愛は疎ましげに手を振った。
「後から刹那さんに愚痴られても困るし」
むっとする。
「俺はそんなに嫌味じゃねえよ」
「どうだかねー」
そう言って愛はそっぽを向く。
そして、ギシカの勉強の進み具合について質問し始めた。
相変わらず変な奴。
俺はその後、出てきた厚切りベーコンを見て、アウラは随分容赦していたのだなと感じたのだった。
さて、登校である。
ギシカと愛は同じ中学だ。
「部活、入るの?」
「硬式野球やると思う。どっかの団体入って」
「ふーん」
愛は俺を振り返ってニヤリと微笑んだ。
「今日、うちの先輩のクラスに転校生来るんだって」
「ゲ」
思わず後退る。
「つまり貴方の印象が良くなるも悪くなるも私次第ってこと」
「……今度パフェ奢るから頼むよ」
俺はつい折れていた。
出だしから躓いた感がある新生活だった。
つづく




