大人しい奴ほどキレると怖い
銃が構え直される。
撃つ余裕は与えない。
俺は縮地を使うと、一瞬で相手の間合いに入り、退魔の長剣を一閃した。
対魔特攻。
魔法生物に対してのみ効果を発揮する長剣に断たれて、腕から黒い煙が舞った。
やはり、悪霊憑きか。
しかし、まだ正気には戻らない。
俺は後退しつつ炎のバリアを張った。
アリエル仕込みの炎の魔術。それを俺は物にしている。
生まれついての潜在魔力量が高いのと相まってそれは強力な鉾にも盾にもなる。
アリス相手に使わないのは、彼女を傷つけたくないからだ。
この盾は危うい武器にもなるのだ。
「次は心の臓をもらい受ける」
俺の宣言に目を丸くすると、女は銃を乱射しようと、した。
しかし、所詮は素人手製の銃。銃弾は既に尽きたようだった。
俺は肩に長剣を担いだ。
「終わりだな、お前」
後は縮地でトドメを刺すだけだ。
その時のことだった。
「大丈夫? 勝ってる?」
愛と千紗が駆けてきた。
「おう、もう終わるとこだ」
そう言って俺は軽く片手を上げる。
その時のことだった。女が懐からもう一丁の銃を取り出したのは。
銃口は千紗を狙っている。
やばい。
そう思ったのと銃声が鳴るのは同時だった。
俺は咄嗟に縮地を使うと、炎のバリアで間一髪千紗を救った。
「あぶねー……」
臨戦態勢を取り直す。
戦闘中に気を抜く。
こんな失態、親父や刹那に知られたらなんと言われるか。
勝負師として未熟。そう判断されることだろう。
「いい加減にしてよ……」
呟くような、ポツリとした声。
発したのは、ギシカだった。
その頭部には角が生え、肌は浅黒く変化している。
「ま、まずい。落ち着けギシカ。皆大丈夫だ!」
「勝手な理屈で皆を危険に晒して……」
呟きながらギシカはずんずんと前進する。聞こえちゃいない。
銃弾が発せられる。
しかし素人手製のそれは、魔族の血を引くギシカの肉体を射抜くには足りなかった。
ギシカが女の手を握りつぶす。
悲鳴に鳴らない悲鳴が上がり、女はその場にのたうち回った。
その腹を、ギシカは踏みにじった。
血を吐き、女は失神する。
そこでギシカは我に返ったような表情になる。
肌も角も普段の彼女のものに戻る。
「愛。ヒール頼めるか? あの女の人に」
「……大人しい子ほどキレると手がつけらんないのよねえ」
呆れたように言う愛だった。
つづく




