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俺を呼んでいたのはお前か?

 門から人影が現れた。

 その気配に背筋が寒くなる。

 まるで、あのシュヴァイチェが帰ってきたかのようだ。


 見かけはパーカーのフードを目深に被った優男。

 しかし実力は岳志クラスのものを感じる。

 この七年で統治に尽力していたギシニルは大して前回の対戦から力量が上がっていない。

 当時、大人数で倒した相手の再来に、一人で挑まねばならぬのか。


(柄でもない)


 そう思い、ギシニルは冷静に頬の冷や汗を拭うと、臨戦態勢に移った。


「俺を呼んでいたのはお前か?」


 パーカーの男が不可解なことを言い始めた。

 ギシニルは拍子抜けする。


(侵略者……ではないのか?)


「こちら側にお前を呼ぶような者はいない。お前の気配は以前この地を支配した独裁者に似ている」


 淡々と事実を述べる。


「なら、何故俺はここに来た? 何故こんなにも頭が痛いんだ?」


「……話にならんな」


 そう言うとギシニルは地面を蹴って、パ=カーの男の胸の中心を貫いた。

 心臓を握りしめ、潰す。

 パーカーの男は倒れ、生命活動が終わっていく。


 かと思われた。


「駄目だよぉ、それじゃあ俺は殺せないぃ」


 恍惚するようにそう言うと、動画を逆再生したかのようにパーカーの男が立ち上がった。

 ポケットからは黄金の輝きが漏れている。


(模造創世石!)


 ギシニルは目を見開く。

 既にあちらが本体となっていたか。

 舌打ちして、後退する。

 その腕をがっしりと掴まれた。


 なんて握力。

 魔族の頂点であるギシニルが対抗できない。


「ようこそ、俺の世界へ」


 周囲に広がるのは一面の墓場。

 死者達が蘇り武装を持つ。


 西洋の騎士達だ。

 馬にまたがるその手には槍が握られている。


「俺ごとやれ! 蹂躙し尽くせ! ひゃーっはっはっはっは!」


 パーカーの男は自棄になったように高笑いする。


「お前っ……」


 ギシニルは歯ぎしりした。

 正気じゃない。そう思った。


 その時、空間に割れ目が出来、パーカーの男の腕を断った。


「大丈夫? ギシニル!」


 スーツのスカートを大胆に破いた女性が神殺しの長剣でパーカーの男の腕を断っていた。


「お前、六華……? 六華なのか?」


 随分と大人になった。

 そうか、あれから七年も経ったのか、と再実感する瞬間。


「お兄とヴァイスさんが来てくれたからもう大丈夫だよ」


「ヴァイス? たれだ、それは」


「神様だよ!」


 空間が解け、消えていく。

 そこには、岳志、エイミー、アリエル、そして新たに見る神がいた。


「ここまでだ。シュヴァイチェ復活というお前の野望、ここまでにしてもらおう」


 岳志は高らかにそう言った。

 パーカーの男は振り向き、戸惑うように言う。

 心底困惑しているようだ。

 ギシニルが放り投げた腕を回収するのも忘れている。


「なんのことだあ? シュヴァイチェ? 誰だ?」


「お前、まさかなにも考えずにここに来たのか?」


 岳志が戸惑うように言う。


「俺は、ただ、恋人を。あれ。なんで、こんなマグマの底に」


 脳の中心が痛むのかのように男は頭をかきむしる。

 それが静まった時、気配が変わった。

 六華が、ギシニルの袖を強く握りしめる。


「そうだ、全ては俺が計画した」


 パーカーの男の声色が変わる。

 その声は――


「そうか、宿っていたんだな。刹那が倒した例のように。模造創世石の中に、お前の思念が」


 パーカーの男の唇の端が上がる。


「そう、俺はシュヴァイチェ。創世の新たな主であり神をも悪魔をも超越した存在だ」


 腹にずんと響くような重々しい声だった。

 六華は真っ青になっている。


 シュヴァイチェの死んだ場所までこいつを移動させては駄目だ。

 そんな確信が湧いてきた。



つづく

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