にゃにゃ、じゃあアリエル達は二回目のやり直しの中にいるってこと!?
「ということがあったのよ」
エイミーはことのあらましをアリエルに語っていた。
天使であり神格を持つアリエルならば自分の疑問に答えられると思ったからだ。
エイミーは今、Vtuberをやっている。
ハリウッドセレブをやっていた一回目の人生も中々に充実していたが、こういう業界で人気者になってアバターの影に隠れるのも良いものだ。
アリエルはエイミーの体験談を聞いて呑気な表情からぎょっとした表情になった。
「にゃにゃ、じゃあアリエル達は二回目のやり直しにいるってこと!?」
「そうなるねえ」
「さも当然、とばかりに言わないでほしいにゃ」
深々と溜息を吐くアリエル。
ここまで長かった。
記憶を持ち越したのはエイミーただ一人。六華は勘が良いのか少し記憶を保っていたようだが、すぐに歴史の修正力に流された。
多分、一回目のやり直しの時も、歴史の修正力によってシュヴァイチェは討たれたのだろう。
「恐ろしいにゃ、模造創世石。そんなことも可能になるとは」
「私も正直、そんな代物がこの世にあるなんて怖いよ。だから、ここからは本格参戦だ」
「その覚悟を言いに来たにゃ?」
「いんや」
エイミーは淡々と否定する。
「なんで私は復活できたんだろう」
「それは岳志の魔力がアンチ創生石的な力を放ったんじゃないかな?」
「アンチ創生石?」
「世界を作り変える力って言っても結局魔力にゃ。岳志はエイミーが消えようとすることに反発した。魔力の上書き合いが生じてパソコンで言うバグのようなものが世界に残った。それがクーポンの世界に残留するエイミーだったとかにゃ」
「うーん、納得いくような、いかないような」
「じゃあ別の意見を述べてみると……運命って奴にゃ」
「運命?」
「そう、運命。縁とも言う」
「縁、ねえ」
随分と使い古された言葉な気がする。
「一度繋いだ縁は中々切れないのにゃ。こいつとこいつが出会ったらこうなるっていうのは運命として決まっているにゃ。それは二度目の繰り返しを体験したエイミーなら理解していると思うにゃ」
「私は前の世界を忠実になぞるように歩いていただけよ? 最後のハリウッドスターになるって選択肢を放棄した以外は」
「けど、シュヴァイチェは倒され、Vtuberとしてのエイミーは人気が増すばかり。アバターで遮断されているけどそれがなかったら多分やり直す前と同じ末路を辿っていたはず。それは懸命な判断にゃ。つまり、一回目のやり直しの世界で産まれた空白。それを紡ぎ直すためにエイミーは二度目の繰り返しをやっているのかもしれないにゃ。つまりは必然って奴だにゃ」
「はー。つまりハリウッドスターエイミーであれVtuberエイミーであれ私のポスターを貼るやつは必然的にそうなるはずだったと」
「歴史の修正力を舐めない方が良いにゃ。まあそれはアジアの文化に詳しいエイミーなら知っていることと思うにゃ」
確かに、色々な国が生まれ、色々な国が廃れた。
それは後から見ればそうなることが決まっていたかのように思える。
それほど、人間は迂闊な判断をしたり、増長したり、その結果人選を誤ったりする。
その積み重ねの末に勝者の歴史が成り立つ。
歴史の修正力。
ならば、自分の運命も決まっているということだろうか。
「それはネガティブな意見だと思うよ、アリエル」
エイミーは告げていた。自信たっぷりに。
「運命は自分で切り開くものだ。偶然が積み重なって形になる。けど、それを形に出来るか台無しにするかはその時その時の自分次第だ。私はそう思う。だから、岳志が努力して魔力を磨いていた結果、台無しにしようとした私を上書きできた。そう私は思いたい」
アリエルはふっと微笑んだ。
「そうだにゃ。けど、エイミーと岳志みたいな二人のことを、運命の人って言うんだと思うにゃよ」
隙を突かれたような気分になる。
「……その運命の人に逃げられちゃったけどねえ」
結局、そこのところの惜しいという感情がピンチに助けてくれるヒーロー岳志という都合の良い像を生み出すきっかけとなったのだろう。
エイミーも感じている。出会うべくして出会う人はいる。出会うべくして出会う職場がある。
しかし、それを掴むも離すも最後は努力次第だ。
努力して自分を磨かなければ、結局はチャンスがあっても逃すのだ。
その自らの水準値を一定まで上げなければ、どんな相手とも、どんな職場とも、どんな家庭とも、破綻することになる。
エイミー達は未熟であるが故に逃した。けど、会い続けるという道を選んだから、破綻という結末まで進めて、得るものもあった。
そして今、エイミーは戦うことを選んだ。
ならば、今まで積み重ねたものが顕著に現れて、また結末まで進めることになるだろう。
二回目の人生、肉体的魔力的アプローチは密かに、しかし徹底的に磨いてきた。
今回の結果は良い方向に転ぶと思いたい。
前回届かなくても、切れる手札は決まっていても、磨くも腐らせるも自分自身だ。
今の自分なら六大名家収束状態の刹那ともやり会えるとエイミーは思う。
「まあ結果的に戦力が上がったなら良いことにゃね。正直不安要素だらけでエイミーが海外にいたらと思うとゾッとするにゃよ」
「夢だったように思うよ。自分が若い頃に体験できた思い出を追体験できた。精神的な年齢だと何歳になってるかわかんないけどね」
「じゃあ、これから東京の守りはエイミーとアリエルにお任せって感じだにゃ」
「うし」
そう言うと、エイミーはアリエルに背を向けた。
「飲みに行くかぁ。岳志も京都帰っちゃったし、あずきと六華と遥香呼んで」
「六華忙しいから来れるかにゃ」
アリエルはそう言いつつも満更ではなさそうだ。
エイミーは思う。この素敵な仲間達に祝福あれ、と。
ここが自分の居場所だ。それをエイミーは噛み締めていた。
月夜が綺麗なベランダの夜だった。
つづく




