とりとめのない日常の中に
なんてことはない。出てきたのはとりとめもない日常だ。
ちょっとした違和感。職場や家庭への違和感。中には統合失調症を疑ってしまうものまである。
そんな中、穴のように不思議なポストがある。
『俺、ここにでっかいポスター貼る予定だったんだけどなに貼るつもりだったんだろう。違和感』
『私アメリカに行く予定立てたけど違和感が残るのはなんで行きたいと思ったか。誰かの故郷だったことまでは覚えてるんだけどな』
『なんか知ってる人が消えたような違和感がある。いつも通りなのに』
調べれば調べるほど穴は広がっていく。
俺の中にもある、その既視感。
不思議な欠落の正体は一体なんなんだ。
俺はあるハッシュタグを思いついた。
#記憶の中の違和感。
プロ野球選手である俺のそれをつけたポストは瞬く間に拡散された。
そして、様々なポストが集合してくる。
皆、感じている。
なにかが足りないと。
『勇気づけてくれた誰かがいた気がする』
『憎めない人だった気がする』
『金髪で……凄く高い鼻をした』
『俺、多分その人が初恋だったと思う。思い出せないんだけど、親戚のお姉ちゃんの誰かだと思ってた』
『芸能人で最近見ないと思った人がいるけど、それかも』
芸能人……?
そうだ、テレビはあまり見ない俺だが、YouTubeは見ていた。
その中で、確かに一人、誰かが足りない。
登録したチャンネルが勝手に外されたかのような。
違和感は俺の中で膨れ上がり、爆発する。
そのうち、俺のスマートフォンには、不思議なクーポンが現れていた。
実家の少し遠くにあるコンビニのアプリがいつの間にか登録されていた。
それを起動する。
白一色の世界が周囲に広がった。
その世界に、彼女はいた。
弱々しく発光していて、今にも消えそうに見える。
目を閉じて、弱々しく漂っている。
意識はないのだろうか。
しかしそこに、様々な方向から光の粒子が集まっていた。
彼女の輪郭が、はっきりする。
彼女の名を、俺は何故か知っていた。
「エイ……ミー……?」
彼女が目を開く。
なにかが壊れる音がした。
その瞬間、俺の周囲は小学生時代に通っていた学校のグラウンドまで巻き戻っていた。
古くくすんでいた校舎が以前のように真新しい。
俺の体も小さくなる。
そして、そこには、エイミーがいた。
名前なんて知らない。
けど、ブランコに座っている彼女がエイミーだと知っていた。
「なんか知らんけど、遊ぶぞ」
そう言って俺はエイミーにぶっきらぼうに手を指し出す。
「今回の君は、いたくぶしつけだね」
エイミーはそう言うと、帽子を深く被り直して、目元を隠して俺の手を取った。
こうして、俺とエイミーの交流が始まったのだった。
「おかえり」
六華が微笑んで言う。
「ただいま」
エイミーはそう言うと、六華の胸に顔を埋めた。
涙声だった。
つづく




