お前を絶対取り返す!
ヴァイスがエイミーに手を伸ばす。
その腕を俺は掴んでいた。
ヴァイスの眉がピクリと動く。
「なにをしている、井上岳志。模造創世石は献上すると言ったではないか」
「それがエイミーだとは思ってなかった。これは俺達で対処する」
凄みを利かせて言う。
「お前になにが出来る?」
見下ろす長身のヴァイス。
俺はそれを睨み返した。
「俺達は神族でも不可能な打倒シュヴァイチェを可能とした。無敵のパーティーだ。お前なんかが今更入り込む余地はない」
「ならばエドゥルフ殿なら納得していただけるか」
俺は返答に詰まる。エドゥルフは神族でありあの最終決戦の一員だ。
「エドゥルフならエイミーを殺したりしない!」
「ちょっと二人で話す時間が欲しいな」
エイミーは静かな声で言った。
「……良かろう」
ヴァイスはそう言って手を引くと、その場に立って時間を待った。
俺はエイミーに手を引かれ、歩いていく。
二人の出会った場所、ブランコがあった。
エイミーはそこに座って、尻を小さく前後に揺する。
「ここで出会ってから、色々あったねえ」
エイミーは苦笑している。
「……笑ってる場合かよ。なんとかしないと」
「結論は決まってる。私がいなくなれば良い。岳志の傷つかない形で」
エイミーは、静かな表情でそう言っていた。
「なにを言っているんだ?」
俺は戸惑うしかない。いや、本当は恐れていた。エイミーの、模造創世石持ちの結論に。
「こんなちょっとした願望が世界にひずみを生む。私はどう考えてもいちゃいけない存在だ」
エイミーの瞳がすっと細められた。
その表情には、確かな覚悟があった。
俺はますます狼狽する。
「待て、エイミー、その結論に至るな!」
「さよなら、岳志」
彼女がそう言った瞬間、幕が降りるかのように周囲の景色が下降していった。
後に残るのは闇だ。
闇の世界の中で、俺はエイミーに向かって手を伸ばしていた。
「大丈夫だよ。私は完全に消えてあげるから。負け犬は、君の心にも残ってあげない」
そう言ってエイミーは悪戯っぽく微笑む。その瞳には涙が滲んでいる。
俺は必死に手を伸ばす。
しかし、何故かエイミーに届かない。
「絶対……お前を絶対取り返す!」
「無理だよ、岳志。これは天地創造の力。私の力に敵う者は、いない。私の心に逆らえる人はいない」
エイミーは淡々とした口調で言う。
もう割り切っているとばかりに。
「サヨナラ」
そう言うと、エイミーはふっと消えた。
唖然としていると、俺はグラウンドにいた。
俺はまだ小学生だ。
眼の前には揺れたブランコがある。
まるでさっきまで誰かが乗っていたかのような。
ここで大きな出会いがあった気がした。
けど、今はなにが起きようとしているかわからなかった。
いや、なにかが起きないことになったのか。
なんでそんな結論に達する? 俺は戸惑いながら腕を組んだ。
「お兄ちゃん、泣いてるの?」
妹が戸惑うように言う。
俺は泣いていた。
大粒の涙を流していた。
なにかを思い出さなければいけない。
ここは誰か大事な人と会うはずの場所だ。
しかし、それが誰かわからない。知っているはずなのに、頭から欠落している。
俺はその場に蹲ると、声を上げて泣いた。
つづく




