エイミーの帰郷
年末になると一大イベントがやってくる。
ハリウッドスターで親日家のエイミー・キャロラインが来日するのだ。
と言ってしまえば大げさだが、エイミーの帰郷である。
彼女の美しさは年々増していくかのようで、中学生の憧れる女性ランキングにも乗ったりしているらしい。
俺と同い年だからもうアラサーに差し掛かる頃だ。
定期的にパパラッチに写真を撮られてはいるものの、意中の人はいないようで、すぐに忘れられている。
俺は模造創世石を片手で弄びながら夜の川辺を歩いていた。
そろそろ来年の自主トレの準備を始めなければならない。
この模造創世石は一日が終わらなければ良いと願った社畜を説得して譲ってもらったものだ。
似たような事件がころころあるのでこちらとしては多少混乱する。
原因探しはいつだって手探りで不透明だ。
あといくつ模造創世石があるのやら。
神族やパーカーの男も収集しているだろうことを考えると、少々多すぎやしないかと思う。
「良く勝てたよな、最終決戦」
ポツリと呟く。
エイミーの無効化の光があったとは言え、かなりの苦戦だった。
仲間が一人、また一人と倒れていく中で、俺とギシニルとエドゥルフだけが残った。
エイミーはあの後海外ドラマに本格参入し、そこから昇りつめて今ではハリウッドスターだ。
七年という歳月は中々に大きい。
俺は高校中退の少年から夢のプロ野球選手に、エイミーは日本ドラマの顔役からハリウッドスターに。
それぞれ前進して今がある。
あずきと声優業で共演なんてこともあったなあとしみじみと思い返す。
彼女の演技力と知名度を信じての起用だ。
色々あったがお互い上手くやってると思う。
頭上を飛行機が飛んでいった。
(もしかしてあれに乗ってたりしてな)
なんてことを思う。
その次の瞬間、飛行機は煙を上げ、傾いていった。
「マジかよおい!」
叫んで胸ポケットにしまってあった神秘のペンダントを装着する。
そして、高々と跳躍した。
飛行機に追いつく。
そして、ファイアアローで屋根を焼くと、内部へと入った。
クーポンの世界や神秘のペンダント装着時のみという縛りはあれど、我ながら人間とは言い難い身体能力までレベルアップしてしまったなあと思う。
「おい、着地準備は大丈夫なのか?」
落下していく機内でキャビンアテンダントに訊く。
内部は騒然としていて、彼女がそれを静めている最中だった。
「岳志!」
そう言って抱きついてきたのは、キャスケット帽を深く被り、サングラスをした女性だった。
声と体格でわかる。エイミーだ。
「エイミーか? 本当に乗ってるとは」
「バードストライクだ。上昇気流を作るよ」
そうエイミーは囁く。
ぞわっとした。
俺もなのだが、彼女も人間外の生き物に片足どころか首元までどっぷり浸かっているのだ。
そのうち、機体が姿勢を維持し始めた。
俺の焼いた屋根からは風が目まぐるしく吹いている。
「助けて、岳志」
エイミーはそう言って苦笑する。
「私、命狙われてるみたい」
苦笑顔で言うことかよ――そう叫ぼうとした瞬間、銃声が鳴った。
覆面を被った男が天上向けて銃を鳴らしていた。
「ね、この調子なのよー助けてよー岳志ー」
「……もしかして」
俺はぼやくように言う。
「お前の行く先々でこんな騒動起きてるの?」
「うん」
ハートマークでも付きそうな声で言ったエイミーだった。
よく見ると目には涙が滲んでいる。
「静かにしやがれ! エイミー・キャロラインを人質に取れば口座から莫大な金が振り込まれるって寸法だ!」
「エイミー!?」
「エイミー・キャロライン!?」
場がざわめき始める。
再び銃声が鳴った。
ざわめきが静まる。
自然と、数少ない立っている客である俺達に注目が集まった。
こうして見れば、白紙に落ちた墨汁のようにくっきりとわかる。
俺とエイミーがここにいる、と。
「さあ、出てこい、エイミー・キャロライン!」
察しの悪いハイジャック犯が叫んでいる。
俺は困ったなあと思いながらエイミーを抱きとめていた。
つづく




