出来ない、と悟った
俺はジャーナリストの首根っこを掴んでアリエルに突きつけてやった。
アリエルは爪の一撃。
その瞬間、ジャーナリストは飛び上がって逃げていった。
「あれで悪癖は収まるかな?」
「世論を誘導しようなんて奴はろくなもんじゃないにゃ」
アリエルは吐き捨てるように言う。
まあ、人間は他者を攻撃する生き物だ。誘導されれば引き寄せられる。明かりに虫がたかるようなものだ。
今回は俺やアリエルが目立ったからターゲットになった。ただそれだけの話。
目立つ明かりにたかった人はそのうちガラスを割る。
その中の熱に焼かれるか熱もろとも押し込むかはわからないところだ。
今回は俺達の熱が勝った。
際どいところではあったが。
まあ、一撃で満足しているこいつはそんな小難しいことは関係ないだろう。
反撃してスッキリして次へ行くのだ。
「んで、肝心の模造創世石は?」
「手に入れたぞ、ほら」
そう言って、ポケットから黄金色に光る石を取り出す。
転がすと、アリエルはそれを追ってこちらに斜め後方を見せ、滅多踏みし始めた。
「あーっはっは。目障りな奴が消えるのは気持ちがいいにゃあ」
なんか凄い醜いものを見ている気がする。
仕方ない。それが人の本質……ってこいつは天使様だった。
アリエルはスッキリした表情で前を向いた。
「これでファン達にポジティブな発信が出来るにゃ」
そう。どんなに醜く染まっても人を勇気づけるのも励ますのもまた人(または天使や神)なのである。
六華がすっかり清濁併せのむようになったように、俺も清濁併せ飲まなければならない。
アリエルのこの一件で俺は精だけでも濁だけでもないのだなと思えた。
それだけで足を運んだかいはあったなと思うのだ。
「ところでお前、それ砕いたけどさ」
「うん?」
斜め後方に向かって器用に反りながら振り返るアリエル。
「あずきさんの記憶の上書き、しなくていーの? 一部の人間の記憶書き換えられてるんだろ?」
「にゃっ」
濁点でも付きそうな声でアリエルは呟く。
「先に言えにゃ~~!!」
ほんっと、アリエル属って。
自分にはこんな後先考えないことは出来ない、と悟った。
つづく




