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出来る、と思った

 井上岳志選手のスマートフォンを中心に白い世界が広がった。

 その瞬間、ジャーナリストである伊藤大々はそれが可能なのだと知った。

 人間は世界を書き換えることが出来る、と。


 それが出来るなら、自分にだって出来るはずだと。

 習うことではない。体が知っている、その感覚。

 欲しいように現実を書き換える力。


 双剣を呼び出し、こちらを睨みつけて腰を落とす岳志を見つつ、唖然としたように、指を差し出す。

 そして思い出す。それは戦争の談話。


「運が良かっただけさ、生き残った連中は」


 そう、テープには残っていた。

 戦争の体験者の貴重な音声。


「あの弾幕の中で生き残れたって奴は、相当運が良かった。それだけだ。生き残った者と生き残れなかった者の差は」


 その瞬間、それがイメージできた。過剰に着飾ったぐらいにイメージできた。

 自分の背後にガトリングガンが複数配備される。

 そして、一斉に銃弾を放ち始めた。


 岳志に向けて。

 瞬間、視界から岳志が消えた。

 気配から、周囲を跳躍して回避しているのだと悟る。

 相手は接近しつつある。


 まるで金庫に侵入する者を目前にしているかのように焦りが大々を蝕む。


「なんだお前は!」


 思わず、叫ぶ。

 叫ばなければ、自分を保てなかった。


「お姫様を助けに来た王子様だよ!」


 衝撃を受け、ふっとばされる。

 背後から蹴られた。そうとわかった。

 即座に再生が始まる。

 そう、世界は書き換えられる。


 何度でも、大々は立ち上がれる。


「今じゃ、オジサマ、か」


 そうだった。苦笑しつつ言うこいつのかつて異名。

 バット一本で包丁を持った強盗から愛する人を守ったがゆえに与えられた名誉。


(――軟式王子っ!)


 思い出して目の当たりにした。

 彼が苦笑しつつ放った雷撃がガトリングガンを破壊しているのを。

 勝てない、そうと心が悟った。折れたと言っても過剰ではない。

 こいつは、バケモノだ。



つづく


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