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「怖い」

「つまり相手は模造創世石持ちってことか?」


「それ以外に世界を書き換えるなんて荒業ありえないにゃ」


 そう言って綺麗な爪を噛むアリエルだった。


「あずきまで侵食されてしまった。私自身に影響が及ぶのもそう遠くないにゃ」


「どこで接触した? お前の生活圏内のどこで?」


「私はまだ接触していないのかもしれない。けどあずきがやられたにゃ」


 アリエルはあずきを降ろすと、腕を組んでつま先で規則的に床を叩き始めた。

 あ、猫の尻尾でぱたぱた床を叩いてる時みたい。


「何処にゃ? 私もあずきも基本引きこもりにゃ。何処で接触したのにゃ?」


「年末のツアーに向けて準備してるんじゃないのかよ」


「じゃあそこの関係者か……」


 アリエルは唸る。

 足音がぴたりと止まった。

 アリエルは俯いていた。


「怖い」


 こいつがこんな弱音を吐くなんて初めてだ。


「私はまだ恋も知らないにゃ。見ず知らずの奴を好きになるなんて、記憶が上書きされるなんて、嫌にゃ」


 それは、アリエルの漏らした本心。

 恐怖を憎まれ口を叩き合う相手にすら見せる余裕の無さ。

 追い詰められている。

 そう感じた。


 彼女は、震えているようにすら見えた。


「任せろ。俺達も付き合いが長い。俺が絶対に犯人を暴いてやる」


 アリエルは俺を見上げた。


「……アテはあるにゃ?」


「虱潰しに当たってきゃなんかにぶつかるだろ。俺も神秘のネックレスと魔力で書き換えには多少抗える」


 アリエルは頭を片手で抑える。

 頭痛を抑えるように。


「こういう奴だったにゃ……」


 そう言って溜息。


「けど、それしかないにゃねえ」


 アリエルは苦笑すると、俺に握りこぶしを突きつけた。


「久々に組むか、アンタと私のタッグ」


 俺は握りこぶしに握りこぶしをぶつけた。


「やってやろうじゃないか。俺達は神と悪魔の両方の存在となったシュヴァイチェすら倒したんだぜ。一般人なんて今更なんのそのだ」


「その意気にゃ!」


 アリエルの瞳に光が宿る。

 好奇心に満ちた子供みたいな瞳。

 アリエル属の原点。


 しかし、宛がないのも確かだった。

 俺は、焦りを感じ始めていた。

 一緒に暮らしているあずきすらもう記憶が書き換えられている。

 犯人は思いの外、近い。



つづく

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