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アリエルはなにやってんだ?

 アリエルはなにをやっているんだろう。

 年末のツアーに向けての準備中だろうか。


 紅白歌合戦には今年は呼ばれていないらしいし、今や歌姫となった彼女がなにをしているのは気になるところではあった。


(……歌姫、か)


 苦笑してしまう。

 俺が野球選手となったように、アリエルは歌姫となった。

 互いに夢を叶えた形だ。

 スタートラインが中卒フリーターと中身が天使とはいえ現実世界では一般人だったことを思えば随分遠くまで来たものだと思う。


 互いに才能はあった。ただ、出会いが欠けていたらこの結果はなかっただろう。

 俺には大学の監督。アリエルにはあずき。

 出会いはきっかけとなり芽の花を開かせる。


 今は彼女はどんな色の花だろう。

 そんなことを思う。


(久々に話してみたいなあ)


 アリエル属の真奈と電話でやりとりするように(やりとりと言っても一方的に電話がかかってくるだけだが)なったからだろうか。

 柄にもなくアリエルのことが気になった。


 スマートフォンが音を立てる。


「誰ー?」


 珍しく休日の妻が料理をしながら訊いてくる。

 スマートフォンの画面を見る。

 うちの二番手投手の稲田卓の名前が表示されている。


 ラインだ。

 そして、そこに記されたメッセージと画像を確認して、俺は目を丸くした。


『こいつってお前の知り合いだろ? 実際どうなのよ』


 表示されてるのはコンビニらしき棚に陳列されている週刊誌。

 表紙に、日本の歌姫アリエル熱愛発覚? の文字がある。

 よりによって俺と刹那の不倫報道をばら撒いた週刊プレミアムだ。


「なにやってんだあいつ!?」


 思わず大声になる。


「うわ、吃驚した」


 妻が調子を崩したように言う。

 子供が泣き始めた。


「あーもう、滅茶苦茶だよ~」


 そう言って火を止めた妻があやしに行く。


「ごめんごめん」


 慌てて謝罪する。

 そして、画面に向き直る。

 確かに、ある。


 日本の歌姫アリエル熱愛発覚、と。

 しかし、彼女が結婚して子供でも産まれれば、その子供は安倍晴明のような半神となるまいか。


 思わず背筋が寒くなった俺だった。

 俺は、かつての相棒、アリエルへ電話をかけていた。

 考えを訊くために、だ。


 週刊プレミアムの取材力は本物だ。

 企業に忖度する大手新聞に嫌気が差して在野に下った記者達が辿り着く先。

 その腕をよりによって刹那とのハグのタイミングを切り取られたことを発端に色々とほじくり返された俺は嫌と言うほど良く知っていた。


 アリエルは電話に出ない。

 コール音が虚しく響き渡る。


「あー、もうっ」


 俺はイライラとしてしまって、電話を切ると、立ち上がった。


「ちょっとーご飯できるわよー」


「急用入った。ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと戻って来る」


 目指すはあずきの家。

 そこにアリエルは住んでいる。



つづく

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