自分の道
俺はしばらく放心していたが、立ち上がると雛子に手を差し伸べた。
戦場から程遠い生活を送ってきた雛子には今の一連の出来事は刺激が強すぎただろう。
雛子はへにゃ、と苦笑した。
「はは、立てないや」
「しゃーねーなー」
俺も苦笑して彼女を抱き上げる。
雛子は微笑んだ。
「へへ、お姫様抱っこ二回目」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
車の助手席に彼女を降ろし、自分は運転席に乗る。
そして、その場になにも残っていないことを再確認して、あるものに気がついて驚愕した。
黒焦げになった遺体が動いている。
下半身は消滅しているが、かすかに息がある。
俺は慌てて車を飛び出し、遺体に見えた瀕死の彼に近づいた。
「龍鳳さん……」
俺の影に隠れながら、雛子が言う。
「ひ……な……こ……あいたか……た」
雛子が戸惑いの表情になる。
「私達、知り合い?」
「ちゅう……がく……いっしょ……うれし……かっ」
そこで龍鳳の意識は途切れた。
雛子は俺の服の背中を握る。
「そっか。ごめんね、覚えてなくて」
「雛子が失踪した元凶も案外模造創世石だったりしてな」
「それじゃ、私、馬鹿みたいじゃない。石ころ一つに人生振り回されたなんて」
「終わったことだよ。さあ、帰ろう、雛子」
雛子はしばし戸惑うように視線を彷徨わせたが、そのうち微笑んで俺を見た。
「うん!」
そして、俺達は公民館へと向かった。
とりあえず、団体には解散してもらわないと後々厄介だろう。
全貌を解明する必要がある。
しかし、そこで待っていたのは、不安げな表情でうつむく人々だった。
一人が、車から降りてきた雛子を見て駆け寄る。
「グランデ雛子、龍鳳様を見ませんでしたか?」
「連絡も取れなくなって、我々不安になっているところです」
「龍鳳様がいなければ我々はどうすれば良いか……龍鳳様いてこその地元の繋がりだったのに」
雛子は複雑な表情でしばらく彼らを見つめていたが、そのうちふっと苦笑した。
「龍鳳様は私に後を託してさらなる修行の旅に行かれました。今後の活動は私が責任を持って対処します」
思いもよらぬ言葉に俺は驚いた。
なんて考えなしにものを言うやつだ。
「お、おい雛子」
「良いんだよ。人には縋る者、繋ぐ者が必要だ。ここでなら私は、誰かになれる」
雛子は歌うように言って公民館の入口に向かって歩いていく。
「これも人生だよ、岳志くん。皆、今後の活動について相談しよう」
そう言って、雛子は公民館の中に入っていった。
後を、縋るように人々が追っていく。
それを見て、俺はやれやれと溜め息を吐いた。
「まったく、あいつらしいっちゃあいつらしいか。所在が知れただけでも良しとしよう」
俺は自然と、自分が笑顔になっているのを感じたのだった。
つづく




