パーカーの男、再び
俺は慌ててビニールハウスの内部に突入した。
そこには、地面に手を突っ込んでいるパーカーの男の姿が。
手を引き抜くと、その手中には黄金に光る石があった。
模造創世石だ。
俺は縮地を使ってパーカーの男の腹部に肘打ちを仕掛ける。
しかし、躱された。
相変わらず身体能力は高い。
「貰ったぞ、井上岳志! 良く案内してくれたな、ここまで!」
「くそ、つけてきたってわけか」
気配に気づかないとは俺も迂闊だった。
しかし、逃がすわけにはいかない。
術を使う暇もない程に攻め立てる。
俺は双剣を呼び出し連撃を放つ。
しかし、相手は器用に躱してみせた。
「回避は一人前だな!」
「一々気に障る言い方をする野郎だ」
パーカーの男は舌打ちする。
周りのケージが倒れ、ラットが逃げ纏っていく。
「なんだなんだ!?」
「人間の動きじゃない……」
研究員達が驚嘆の声を上げる。
そして、俺の一撃がついにパーカーの男の腹部を貫いた。
「ぐっ……」
模造創世石がパーカーの男の手から滑り落ちる。
それを俺は、片手でキャッチした。
そして、距離を置く。
模造創世石は二つ。
一つはパーカーの男が持っている。
油断は大敵だ。
その時のことだった。
「なんの騒ぎだ、これは!」
若い男がビニールハウスの中に入ってきた。
俺は一瞬で若い男とパーカーの男の両者を視界に納められる位置に移動する。
パーカーの男がニヤリと微笑んだのが見えた。
パーカーの男は跳躍すると、液体の入った点滴袋を十個以上掴むとビニールハウスの外へと跳躍していってしまった。
追いたい気持ちはあった。
しかし、雛子を一人ここに残していくわけにはいかない。
若い男が俺に視線を向ける。
「おお、これはこれは井上選手。グランデ雛子のご友人でしたか」
「お前の野望もここまでだよ」
俺は脱力しつつ言う。
模造創世石は奪った。もうこの男に力はない。
「どういうことですかな……?」
若い男が怪訝そうな表情になる。
その胸から、槍が生えた。
「模造創世石を悪用した者に裁きを」
そう言うと、新たに現れた槍を持った法衣の青年は手を天に掲げた。
(こいつ、神だ!)
気配からそうと分かる。
ヴァレンティ達のような話のわかる手合ではなさそうだ。
俺は雛子を抱えると、すぐにその場から離脱した。
雷撃が降り注ぎ、ビニールハウスを完全に消滅させた。
俺は雛子を下ろすと、法衣の男と向かい合う。
「お前達も関係者か? 今無にかえしてやろう」
「井上岳志、という名前に聞き覚えがないか?」
冷や汗を流しながら言う。
一触即発の空気が流れていた。
「お前がそうだと?」
法衣の男はわずかに目を見開く。
「ああ、そうだ。お前の目的はこれだろう? 俺が確保しておいたから破壊してくれ」
そう言って俺は黄金色に光る石を相手の足元に転がす。
相手はしばし蟻を見るようにそれを眺めていたが、そのうち槍の柄の先で破壊した。
「今日のところは退いてやろう。俺の名はヴァイス。次はこうはいかんと思え」
そう言うと、ヴァイスは消えてしまった。
後には、焼け焦げたビニールハウスの跡が残った。
俺は一先ず安堵し、深い息を吐くとその場に座り込んだ。
つづく




