龍鳳の瞳
山奥に向かって俺は車を走らせた。
幸い、道中に邪魔はない。
監視カメラにはバッチリ映っているだろうが、出てくるとしても精々銃程度だろう。それなら俺の敵ではない。
神秘のペンダントを着けているせいもあって、どんどん模造創世石の気配が近づいてくるのを感じる。
ここにある。あの石が。
しかし気のせいだろうか。
(模造創世石の気配、二つないか?)
相乗効果があるとしたら厄介だった。
まあ、実際に見てみないとわからないだろう。
雛子の案内に従って何度かの分かれ道を移動していく。
そして、俺達は山奥のビニールハウスに辿り着いた。
雛子が前に立って歩いていく。
俺は運転席から出て慌ててその後を追った。
「おいおい雛子、ちっとは用心とか……」
「大丈夫だよ。私は顔なじみだから」
気楽な雛子である。
奔放な彼女らしい。
彼女はビニールハウスの扉を開けると、中の人々に声をかけた。
「やあ、グランデ雛子だよ」
グランデ雛子? マンションかなにかの名前か?
「おお、ナシゴレグランデ雛子。今日はなんの御用でしょう」
ナシゴレ? 俺は首を傾げたいような気持ちにさせられる。
「ちょっと案内したい客人がいてね。見学させてもらってもいいかな?」
「うーん……貴女は確かに龍鳳様の信頼厚い方だ。しかし、龍鳳様の許可なしに見学は……」
「そこをちょっとお願い。ビザシルでケレングなお客さんなの。オリックスバッファローズの井上岳志選手だよ」
「おいおい雛子」
そうぽんぽんと身柄を明かされては困るのだが。
「あの井上選手……」
「なるほど、龍鳳様にスポーツ界のコネを作ろうとのお考えでしたか」
「そういうこと」
いや、聞いてない。
本当に調子のいい奴である。
「どうする?」
「龍鳳様の許可は出ているのか?」
「うーん、だが、グランデ雛子の仰せだぞ」
「見学だけなら……」
中の人々が小声で相談するのを俺の聴覚は耳ざとくキャッチする。
「わかりました。見学だけなら構いません」
そうこなくては。
俺は意気揚々と中に入ろうとした。
その瞬間、パーカーの男がビニールハウスの内部に空から突入していったのだった。
つづく




