模造創世石を奪え
俺は雛子から聞くことになった。
一つの男の決めたルールの元住民を管理する謎の団体。
山奥で進められている研究の一端に、恐るべき野望。
「俄に信じがたいな。投薬の効果がそんなすぐに発揮されるとかおかしいぜ」
「けど見たんだもん」
雛子は子供のような口調で言う。
久々の再会のせいか子供帰りしているのかもしれない。
「一センチはある壁をラットがバリってさ。あれ、人間に使われたらヤバイよ絶対」
「俺はそれ以上にヤバい奴だからへーきへーき」
俺より弱い刹那の時点で大半の人類が相手にならないのだ。
「もう、自信家ね」
「俺には積み重ねがあるからな。初期の俺は目玉のおばけにもビビっていたが、今じゃあドラゴンだって相手にしてる」
「あー、そういやそうだったね。龍のお姫様だっけあの子」
雛子は呆れたように言う。
「まあ、そういうわけで、龍鳳は日本征服を企てている。多分、こいつと接触した時に岳志君に心の中で助けを求めたから、その二回のうちどちらかに模造創世石があったんだと思う」
「雛子の願いも叶えたということは持ち主は不在。効果を自覚していないのかな。本当に自分の力で勢力を拡大したと信じているのかな」
「脳天気な男ってわけね」
「……自信家は厄介だぞ。天上を知らないからな」
「岳志君だって相当自信家だと思うけど」
「まあな。俺は根っこが太いから」
まあこの言い様では自信家と言われても仕方あるまい。
「自信家と模造創世石。この組み合わせは厄介だ。天上を知らず願う男と天上を無くして願いを叶える器。どこまでも際限なく伸びていく。この規模のうちで助かった。酷い脅威になるところだったぜ」
「もしかして私、偉い?」
「偉い偉い」
頭を撫でてやる。
雛子の顔が一瞬で真っ赤になった。
「子供扱いしないでよー」
「ああ、すまんすまん」
手を引っ込める。
雛子は俯いて何やらぶつぶつと言っている。
「で、その二つの場所って何処だ? できればその龍鳳って男と遭遇せずに済ませたい」
「公民館と……山奥のビニールハウス」
「公民館、か。そこならうろついても不自然はないだろうな。厄介なのは後者だ」
「山奥にぽつんとあるだけのビニールハウスだよ?」
「重要な研究に使われてるんだろ? 防犯カメラぐらい用意してあるさ。さて困ったな、アリスを連れて来れば良かった」
「アリスって相変わらずあの容姿のまんま?」
「ぜんっぜん変わってないな」
「ふーん」
疑わしげに俺を見る雛子である。
「いや、俺は、戦力としてアリスを評価しているわけであって、容姿を気に入って連れ歩いてるわけじゃないぞ」
「どうやら」
拗ねて歩き出す。
人が結婚して身を退いたって発言は何処へ行ったんだ雛子。
相変わらずの雛子だった。
まず、公民館に案内してもらう。
神秘のペンダントを胸につけ、波動に感覚を研ぎ澄ます。
しかし、感じるものはない。
「山、だな」
俺は確信を持って言っていた。
龍鳳が雛子が恐怖したという計画を告白した場所。そこに黄金に光る石がある。
「私もついてくよ。てか、私が案内した方が好都合でしょ? 顔パス効くし」
雛子は気楽げにそう言う。
「しかしだなあ……」
危険ではないだろうか。
「なにかあったら守ってくれるでしょ。岳志君が。たまには私の騎士もやってよ」
とんだ言い回しだ。
俺は苦笑してしまった。
「わかった。一緒に行こう」
どんどん溝が埋まってきたのを感じる。
相変わらずのやり取り。懐かしいやり取り。
二人の距離は秒単位で近づきつつあった。
つづく




