偶然? 否
俺は腕を組んでしばし考える。
俺の気になった探索先にたまたま行方不明になった雛子がいた。そんな偶然あるか?
答えは否だ。
必然と考えた方が良い。
ならばその必然の原因はなんだ。
(……模造創世石、だな)
それぐらいしか思い当たらない。
「雛子。お前、最近俺のことを必要だってどっかで念じただろ」
雛子はきょとんとした表情になったが、すぐに必死の形相で何度も頷く。
「助けてほしかった! なのに来てくれないんだもん!」
「勝手に行方不明になったのはお前だろ」
溜息を吐く。
勝手に職場に退職届を出して勝手に引っ越して勝手に消えた。
後に残された者の寂しさなんて気にもしない。
こいつらしいと言えばらしいが。
「何処で念じた。思い出せ。そこが模造創世石の在処だ」
「――二ヶ所、ある」
そう言って、雛子は指を二本立てた。
「両方入り込めるか?」
雛子はぶんぶんと頷く。
俺は微笑んだ。
「なら、良い」
「ねえ雛ちゃんちょっと良い? その人、岳志って言うの?」
「もしかしてオリックスバッファローズの井上岳志選手?」
俺は雛子から顔をそらすと、サングラスの位置を整えて、その場を後にした。
「雛子、出直すわ。俺はそっくりさんだけど本人じゃないです」
「だよねー」
「硬式王子がこんな場所に来るわけないもんねえ。来たらちょっとした騒動だわ」
うーん、いっそ変装術でも覚えられないものだろうか。
迷宮のクーポンの起動を考えた一幕だった。
つづく




