グランデ
(やだなあ、上司に報告しようかなあ)
そんなことを思いながら眼の前の単純作業をやり続ける。
カメラのレンズに傷がないかの検品作業だ。
最近、あの町の人々の親しげな様子が一層強くなった気がする。
あのお香も気になる。
表面上は親しく出来ている。それが雛子の武器だ。
しかし、これ以上踏み込む前に、一線を引いておく必要がある気がするのだ。
「お先上がりまーす」
着替えて、リュックを背負い、帰り道を歩く。
畑の中にアスファルトの道路が一本できている。そこを、ただひたすら町向かって歩く。
(一本線を引くって言ってもどうやって……?)
親しくなれなくて出てってもらうしかない人もいた、と町の人は言っていた。
つまり、あの宗教や集会に触れていないと町から追い出されるのだ。
同調圧力に弱い雛子にはぞっとするシチュエーションだ。
けど、これ以上いい顔をしていたら絶対に危ないことになる気がする。
このままでいいはずがない。
そんな事を考えていると、会社借り上げのアパートに着いた。
部屋の扉を開けようとすると、影からぬっと人が数人出てきてぎょっとした。
「雛子ちゃん、お帰り」
「待ってたよ雛子ちゃん、話があって」
「雛子ちゃんも喜ぶ話だと思うのよ」
近所のおじさんやおばさんだ。
悪い人ではないんだが、例の宗教に傾倒しすぎていて少し近寄りがたい。
「あはは、熱烈ですねえ。私も喜ぶ話? なにかなー」
(馬鹿、私、いい顔すんな。近づく隙を見せんな。だからこうなってんだろ)
「ベルグランデの方が雛子ちゃんをグランデに指名しようとされているの」
「グランデ?」
三人はにこりと微笑んで、おばさんが代表して口を開いた。
「小規模なまとめ役よ。雛子ちゃんはこれからどんどん高まっていく道が開けたわ」
くらりときた雛子だった。
もう岳志に相談して良い気がしてきた。
こんな異常な状況岳志案件だ。
球界で代表的な選手に昇りつめた岳志と妙な町で妙な宗教に掴まってる自分。
スタート地点は同じだったはずなのにどこで差がついた?
頭を抱えずにはいられない雛子だった。
つづく




