決戦当日
悪魔の契約をしてしまったな、というのが実際のところだった。
先輩を尾行してその日常の顔を垣間見る。
魅力的ではあるが卑怯な手段だ。
流石はコラボ魔あずきと言ったところか。
相手の需要は理解している。
そして俺は部屋に戻った途端に、アリエルにまとわりつかれた。
アリエルは鼻を近づけ、くんくんと俺の匂いを嗅ぐ。
顔立ちの整ったアリエルだ。
細い三つ編みを揺らしながらそんな調子で全身の匂いを嗅がれると、彼女が駄猫だとわかっていてもちょっと変な気分になる。
「なんだよ駄猫。夏なんだから臭いとかは言いっ子なしだぜ」
「臭いにゃ」
言いやがった。
そりゃ、この猛暑の中三十分自転車を漕いで職場から帰ってきたところだから多少は汗の匂いはするだろうけれど。
「まだ孵り切っていない悪霊の卵の匂いがぷんぷんするにゃ」
アリエルの言葉に、俺は背筋が寒くなった。
「どうやら岳志のバイト先、一旦私も行く必要があるみたいにゃね」
やれやれ、と言った様子で言うと、アリエルは部屋の中に戻っていってしまった。
そして、決戦当日。
焼き鳥屋七福神前。
集まる人影を見守る影が四つ。
あずきと、俺と、アリエルと、妹。
「てか、なんでついてくるかねお前は」
妹に言う。
「デートするのかと思って……」
妹は拗ねるように言った。
「まあまあ。ルールは分かったね。大声禁止。後変装は解かないように」
流石はコラボ魔あずき。仕切りは任せろといった感じか。
俺達はそれぞれ簡易的な変装をしている。
ちょっとした髪型や服装の変化でイメージが変わるのはちょっとした驚きだった。
ある程度人数が揃ったらしく、先輩たちが七福神に入っていく。
俺達は、その後に続いた。
先輩は同級生とどんな会話をするのだろう。
いけないと思っていながらも今からドキドキだった。
先輩がキモいとか臭いとか言っていたらショックかも知れない。
そう言ったらあずきは菩薩のように微笑んで言った。
「岳志君、エグい子はそんなもんじゃすまないよ」
その一言が一抹の不安を煽るのだった。
続く




