人生の先輩の体験談とかいうやつ
「うーん、追い出しコンパねえ。追い出しコンパかぁ」
あずきは配信用の椅子に膝を組んで、頬杖をついて言う。
俺はその前で、正座していた。
「遥ちゃんを信じてあげなよって言いたいとこだけど、確かにその男は、クサいなあ」
「でしょ!」
俺は身を乗り出す。
「スキンシップも馴れ馴れしくて! なんかそれが自然って感じで。先輩も微妙に避けてる感じでした」
「実際にあるんだよねえ。追い出しコンパ。これで別れ。実は今まで好きでした。それで成立するパターン」
俺は手をぎゅっと握った。
「遥ちゃんに限ってそれはないと思うんだけどね。けどさ、岳志君。これから先、遥ちゃんと結婚するとしてだよ?」
あずきはやや冷ややかな目で俺を見る。
「け、け、け、結婚ですか!」
飛躍した発想に俺は頬が熱くなる。
「就職先の新歓コンパに飲み会に、打ち上げに新年会に忘年会にーって、君は何度も遥ちゃんの留守を待つことになるんだよ? それを何度も不安がるの? そんな神経でやってけると思う?」
正論だ。俺はしょんぼりするしかなかった。
「それに、そんなウェーイ系のサークル、彼女が居続けるわけないと思うんだよね。その男だけ警戒しておけばいいと思うんだよ」
確かにその通りだ。
しかし、その男。どう警戒すればいいのだろう。
まさか先輩に直に警戒しろと言うわけにもいくまい。
「って言うわけで、やってみるか」
あずきはニヤリと微笑む。
「尾行。一回やってみたかったんだ。一回見れば安心するでしょ?」
いつの間にか、俺は尾行という一大コラボに巻き込まれようとしていた。
俺は真っ白になった頭でスマートフォンを取り出し、木下の電話番号を呼び出して通話ボタンをタッチする。
相手は数コールの後電話に出た。
「木下さん。五回ぐらい風邪でシフト変わりましたよね」
後はなるようになれ、だ。
あずきは、交渉成立と再度ニヤリと微笑んだ。
あずきと俺、大物Vtuberと冴えない片思い男の大型コラボの実現だ。
続く




