貴女は私の妹でしょ?
「ということで、私は帰る場所がなくなってしまったというか……」
アリスが申し訳無さげに言う。
手足は伸び切って、あずきの服からは素肌がはみ出ている。
髪の毛は伸びて、分けていなければ目が隠れていただろう。
居間の椅子に深々と座ったエイミーは、一つ溜息を吐いた。
「それで?」
アリスはぐっと詰まった。
緊迫した空気が場に漂う。
「ヴァンパイアの妹なんか嫌だろうけど、私をここに置いてくれない? お姉ちゃん!」
エイミーはもう一度、溜息を吐く。
俺達は、息を呑む。
エイミーは立ち上がって、アリスに歩み寄った。
「当たり前でしょ」
エイミーはなんでもないような口調で言った。
「貴女は私の妹でしょ?」
「お姉ちゃん!」
アリスはエイミーに抱きついた。
エイミーが眉をひそめる。
「あんた、私より胸でかいわね」
「そ、そんな事言われても……」
「まあ良いわ。許したげる」
そう言って、エイミーはアリスの髪を梳いた。
「岳志」
唐突に呼ばれて、俺は背筋を伸ばす。
「アリスが戦力になるって、どういうこと?」
「ああ、それはクーポンの世界でみせるよ」
そう言って、俺は移動し始めた。
六華、ヒョウン、アリエル、エイミー、アリスがその後に続く。
一般人の面々と離れた場所で、俺は決闘のクーポンを起動した。
白一色の世界が周囲を塗りつぶす。
「アリス、俺の影に入れ」
アリスは頷いて、トコトコ歩いてくると、俺の影に入る。
そして、俺は宙に浮いた。
ヴァンパイアの飛空能力。それが俺に備わったのだ。
そして、アリスに向けて魔力を注ぐ。魔力は血となり、空中から地上に向けて、散弾を降らせる。
ヒョウンが感心したように頷いた。
エイミーは目を丸くしていた。
「俺の魔力をアリスが血に換算する。それを血弾として放つ。これは強力な範囲攻撃になるぜ」
エイミーはしばらく考え込んでいたが、そのうち溜息を吐いた。
「一つでも戦力が欲しいところだわ。逃す手はないわね。けどアリス。貴女にその覚悟はある?」
「私の呪われた力が守る力になるなら、私は戦える」
アリスの言葉には、決意が籠もっている。
それにほだされたらしい。エイミーは、本日三度目の溜息を吐いた。
「岳志。信じてるからね」
「ああ。アリスの身は俺が守る」
「ええ。元の体に戻る手段もそのうち探してもらうわよ」
また仕事が増えてしまった。
しかし、それも仕方ないだろう。
最後には皆で笑って過ごせる日がくれば良い。
俺はそう思った。
この日、どこかすれ違っていた腹違いの姉と妹は心の底から和解した。
それは同情かもしれない。惰性かもしれない。
けど、心が通じ合ったのは確かだ。
つづく




