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私はヴァンパイアのアリス

 俺がアリスを担いでエイミー邸に戻る頃には、アリスの肉体は変化を迎えていた。

 迂闊だった。

 魔物の肉体に進化を促す俺の肉体。

 その血を与えたことによってアリスの体は成長したのだ。


 背は伸び、胸は豊満になり、髪の毛は伸び、姉のエイミーにより近い顔立ちとなった。

 あずきが、ドアホン越しにそれに気がついてぎょっとする。


「岳志君、アリスちゃん、一体、どうなったの?」


「これには色々事情がありまして……一先ず、扉を開けてもらえますか」


「わかったわ」


 あずきが玄関の戸を開けて駆けてくる。そして、門の鍵を開けた。

 俺が中に入ると、門の鍵が閉じられる。


「服が窮屈そう……私の予備の服と着替えさせるわ。岳志君は居間までアリスちゃんを運んで」


「わかった」


 俺は頷くと、居間までアリスを運び、自室に移動した。

 そして、エイミーに電話であらましを話す。


 エイミーは絶句していた。


「……已む無い事態だったんだ。悪魔の侵入の報告はなかったのか?」


「今朝、自衛隊と陰陽連の部隊と悪魔の一個小隊が衝突したという報告は受けていた。生き残りが、いたのかもね」


「次からは、そういうのも報告してくれ」


「わかった。信用してたのになあ」


 そう言われると、俺も弱い。


「仕方ないだろ、失血死させるわけにもいかなかったんだから。命は助かった。それが全てだ」


「ヴァンパイア、かぁ。あの子の母親の先祖かなぁ」


「多分、そうだろうな」


 エイミーが模造神になる際に、その血は支障となったはずだ。


「とりあえず帰ったら私が色々話すから、あの子にはそう伝えておいて」


「わかった。それと、もう一つ話がある」


「なに? 休憩時間終わりそうなんだけど」


「アリスは、戦力になる」


「アリスを戦いに巻き込むの?」


 エイミーは信じられない、と言いたげな口調で言う。


「安全は確保する。まあ、まずは帰ってからだ」


 沈黙が漂った。

 エイミーを呼ぶ声が電話越しに聞こえる。


「仕方ないわね、帰ったら聞くわよ。問い詰めてあげる」


 そう言うと、エイミーは電話を切った。

 俺が一階に降りる頃には、アリスは着替えを終えて目を覚ましていた。

 着替えは、あずきの部屋着のようだ。灰色の寝間着のようなゆったりとした服だ。

 静かな表情だ。

 俺は、その側に近寄る。


「アリス、俺がわかるか?」


「岳志さん」


 アリスは、泣きそうな顔で苦笑する。


「私は、ヴァンパイアのアリス」


 不自然だった発音も今は自然だ。

 彼女の脳が進化したということなのかもしれない。


「帰る場所を失った悪魔」


 そう言うと、アリスは一筋涙を流した。

 俺は、その手を取った。


「ここにいれば良い、アリス」


「私なんかがいて良い場所じゃないよ」


「皆、居場所がなくてここに来た奴ばっかだ。そんな皆で、家族をしている。アリスもその一員になれば良い」


「お姉ちゃんが許してくれないよ」


 アリスは苦笑する。


「大丈夫だ。許してくれる。それに……」


「それに?」


「アリス、今、俺達の世界が危機を迎えている。今日みたいな悪魔が、大軍を成して攻め込もうという日が近づいている」


 アリスは、目を丸くして息を呑む。

 俺は、アリスの手を握る手に力を込めた。


「俺の、力にならないか? お前の安全は、命に変えても俺が保証する」


 アリスが息を呑む音が、居間に響いた。

 アリスがいれば、新必殺技を会得できる。俺はそうと確信していた。


「私のこの忌まわしい力が守る力になるなんて、考えたこともなかった」


 アリスは、天を仰いで苦笑する。

 そして、俺を見て微笑んだ。

 姉のエイミー譲りの、天使のような笑顔だった。


「ヴァンパイアの私が力になれるなら、喜んで」


「約束だ」


 俺達は、この日、タッグを組んだ。

 姉の元彼と元カノの妹というややこしいコンビではあったが。


つづく

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