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アリス・バーランド

 今のところ、平和は保たれている。

 明日はどう転ぶかわからないと言った感じだが。

 呪文を除けば俺には範囲攻撃がないに等しい。


 集団で攻めてくるだろう悪魔にどう対応できるだろう。

 ヒョウンに相談すると、難しい顔をされた。


「それは難問だな、少年」


「つってもよ。相手さんは集団で来るんだろう? 俺達三人にエイミーの無効化攻撃でもちょっとなあ」


「天界も腰が少々重いのだ」


 神格クラスではなく天使クラスであるヒョウンが派遣されていることからもそれが伺える。


「私も考えておこう、少年。あるいは、お前の魔力を有効活用できれば眼を見張るような新技を開発できるやもしれん」


「本当か?」


 エイミー邸の庭に座っていた俺は、腰を浮かせる。


「かもしれん、と言うだけの話だ」


 ヒョウンはそっけなく言った。

 それもそうだ。そんな術があれば神族がとっくの昔に使っているだろう。


 その日の修行は、それで終わることになった。

 解散して、各自家に向かう。

 その時、俺は玄関前の門に、客人が訪れていることに気がついた。


 色白の、青白いとすら言えるほどの肌の人間だ。

 麦わら帽子で、髪型と表情は見えない。

 ドアホンも押さず、迷子のように立ちすくんでいる。

 なんとなく気になって、出ることにした。


「なんか用か?」


 門越しに声を掛ける。


「エイミー・キャロラインはご在宅でしょうカ?」


 発音がやや怪しい。外国人だろうか。

 まだ幼さが残る声だ。


「仕事中だなあ」


「ソウですか……」


 残念そうに言う。


「デ直しマス」


 思わず、門を開ける。

 風が吹き、麦わら帽子が舞った。

 髪の毛が自由になって、風に揺れる。

 日差しの光彩によって茶にも金にも見えるその髪が純粋に綺麗だと、そう思った。


 エイミーが、いる。

 幼い日のエイミーが、いる。

 彼女は目をまんまるに見開くと、俺の顔を見て微笑んだ。


「アナタが、お姉ちゃんノ片思いノ人……」


「お姉ちゃん?」


「私は、アリス・バーランド。エイミー・キャロラインは、腹違いの私の姉です」


 そう言って、握手をしてくる。

 背筋が寒くなった。

 気温が高くなり始めたこの六月。

 彼女の体温は冷蔵庫で冷やしてきたかのように冷たかった。



つづく

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