今そこにある危機
「それにしてもお前、前回なんでなんでもない顔で着いてきてたんだ?」
俺は六華の部屋を訪ねて質問していた。
六華は動画の編集の真っ最中で、パソコンのディスプレイには画像、音楽などの進行を示す線がこと細やかに示されている。
「だってお兄の為につけた力だし」
「いや、俺はそもそもお前の平和を守るためにだな」
「お兄。もう守られてるだけの私じゃないよ」
六華は淡々とクリックしながら言う。
「エイミーはまた撮影の為にアメリカに行った。駒は明らかに足りていない。私だって戦力のはずだ」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「けどだなあ……お前に万が一のことがあったら俺は悔いても悔いきれんぞ」
「そこはお兄が守ってくれればいいでしょ」
こともなさげに言う。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
最近兄離れしてきたのは良い兆候だが、兄のあしらいが上手くなっている気がする。
「なら、条件が一つ」
「なあに?」
「俺にかすり傷一つでも負わせたら戦力として認めてやるよ」
「……乗った」
少し憤慨したような表情で、六華はこちらを振り向いた。
+++
「シュヴァイチェよ」
闇の中に朧気な光が灯っている。
光の中央にシュヴァイチェはいた。
座り込んで、集中しているようだ。
「まだ、我らの眷属には溶岩の壁を脱せられるものは少ない。まだ地上と魔界を近づけるには時間がかかるか」
「まだしばしかかるでしょうな」
シュヴァイチェは淡々とした口調で言う。
「そうか、お前ほどの者でもまだかかるか」
「創世石があればまた話は変わってくるが、次元を歪めるというのは容易な事ではないのです」
「ふむ……ギダルムが姿を消した」
「井上岳志に敗れたのでしょう」
「それほどの者か?」
「ええ。私と戦った時はやや鈍っていたが、純粋な戦闘力は私に肉薄します」
「ふむ……」
シュヴァイチェに話しかけていた者は、決意を込めたように言う。
「ならば授けなければなるまいな。そなたに、魔族の洗礼を」
シュヴァイチェはにいと微笑んだ。
「有難き幸せ」
つづく




