謹賀新年
「いらっしゃーい岳志君」
遥の母に出迎えられて、正月の朝、俺と遥は遥の実家にお邪魔していた。
クリスマスに二人で過ごせなかった詫びだ。
「ご無沙汰してます」
そう言って頭を下げる。
「ホントよお、用事がなくても来てくれても良いのに。入って入って」
そう言って気さくに笑いながら遥の母は家の奥へと進んでいく。
客間で遥の父は既に出来上がっていた。
その方がこちらとしてはありがたい。
普段の彼からは、なにかこう、若干の警戒心のようなものを感じるのだ。
「岳志くーん、来てくれたかぁ。まあ隣、座って座って」
「はあ、まあ」
恐縮しながら隣に座る。
酒臭かった。
「あんまり岳志を困らせないでよー」
呆れたように言いながら遥が俺の向かいに座る。
「お父さんはなー、子供とサッカーするのが夢だったんだー」
「岳志は野球の人だよ」
「今からサッカーに鞍替えせんかね」
「野球で内定もらってますからそういうわけには……」
遥の父は一瞬真顔になった。
俺はヒヤヒヤする。
しかし、次の瞬間彼は破顔して、俺の背中をバンバン叩いた。
「まあそうだわな、孫に期待するとするかぁ」
俺は息子には野球教えたいんだけどなあ。
「気の早いことね。岳志の大学受験だって来年なのに」
「もう来年かぁ……」
この二年、密度の濃い二年だった。
野球部を追い出され、遥と出会い、クーポンを手に入れ、アリエルと共闘を初め、様々な戦いと出会いを繰り広げた。
高校生活こそ送れなかったものの、十分に青春したと言える。
ただ、敵の黒幕はまだ倒せていない。
シュヴァイチェ。
彼は魔界にいて、まだなにかを画策している。
料理が運ばれてきた。
今日は遥のための日だ。
俺は目一杯の笑顔を作った。
四十分ほどした頃だろうか。
スマートフォンに電話がかかってきた。
「すいません、ちょっと出ます」
アリエルからだ。嫌な予感を覚えつつ外に出る。
「もしもし、岳志にゃ?」
「どうした?」
「悪魔が岳志をご指名にゃ」
背筋が寒くなった。
「それも、三体」
顔面蒼白とはこのことだ。
「紗理奈のワープゲートを繋いでくれ。場所は六華のGPSで探知できる」
「了解にゃ」
そう言うと、電話は切れた。
「ちょっと野暮用が出来たので一時間ほど離れます。すぐ戻ってきますので」
部屋に顔だけ出してそう宣言する。
不安げにこちらを見る遥に、俺は微笑んでみせた。
つづく




