すれ違い宇宙
高校の昼休み、刹那が最近できた友達と昼食をつついていたら、あかねから電話がかかってきた。
「ごめん、親戚から。ちょっと出るね」
周囲に謝罪して、電話に出る。
「もしもし、あかね、なに?」
「もしもしー、学校行ってるー?」
「行ってるよー。最近は毎日行ってるー」
「良いことだ。高校ぐらいは出なね」
「うん」
あかねは親しくなると姉貴風を吹かせてくるようになった。
それが少しくすぐったい。
「それで要件はなに?」
「岳志、来てるんだって?」
「来てるよー。今日も朝からヘトヘト」
「と言うと?」
「ちょっとやりあうつもりが耐久戦になってね。尻尾振った犬みたい。足腰立たなくなるまでずーっと」
周囲の空気が少し張り詰めた気がするのは気のせいだろうか。
「ほ、ほー。足腰立たなくなるまで。それで、岳志のテクはどうだった?」
「テクニックは然程ではないかな。けどどんどんコツを掴んできて。最初は私が上に立ってリードしてたんだけど、最終的には立場が逆になって翻弄されてたみたいな。流石だよ岳志は」
「そ、そっか、刹那が上だったんだ」
「うん、私が上」
周囲からざわめきが聞こえるようになったのは気のせいか。
「一番吃驚したのはどんな時?」
「腕をぐいと引かれてワンステップで前後逆転された時かな。後ろからバンバン攻められて腰が砕けるかと思った」
周囲のざわめきが大きくなる。
「ねえ……明日から私も混ぜてくれない?」
あかねが、恐る恐ると言った感じで言う。
「うん? 良いよ。収束の力があった方がもっとハンデつけやすくなるしね」
「うん、絶対行く!」
そう言って、電話は切れた。
なんだかんだであかねも岳志思いだな。無償で修行に協力するんだから。
黙り込んでいた一人が、恐る恐ると言った感じで訊ねてきた。
「せっちゃん、彼氏できたの?」
「うんにゃ?」
「じゃ、今の話は?」
「ああ、家に泊まってる恩人の話。とてもお世話になった人なんだ。臆病だった私に、一歩進む勇気をくれた人」
「そっか。せっちゃん大人なんだねー」
「外見も大人だもんなー」
しみじみと言った感じで周囲の友人は頷き合う。
なんだろう、この空気。
男子生徒の一人が、涙目になりながら、近づいてきた。
最近、親しくなった生徒だ。
「刹那!」
「うん? なあに?」
「お前、最近社交的になって、綺麗で」
「にゃっ」
綺麗。その一言で刹那は頬が真っ赤になって背筋が伸びる。
「いいなって思ってたけど、他に男がいたんだな。その男のこと、好きなのか?」
刹那は、心の中で整理する。
初めて出会った西院の夜を思い出す。
交流を深めた六階道家の庭を思い出す。
あの頃は自分も不器用で、
「風が静かね……」
だなんてぐらいのコミュニケーションしかとれなかったものだ。
決死の安倍晴明戦を思い出す。
皆で行った温泉を思い出す。
振られた過去を振り返る。
それでも。
「好きだよ。片思いだけども」
「そうか」
そう言うと、男子生徒は泣きながら去っていってしまった。
「いやあまさか刹那がそこまで進んでたとはなあ」
「意外や意外」
「……何の話?」
聞いても、友人達は教えてくれなかった。
+++
翌日、決闘のクーポンの世界に来たあかねは、戦い合う刹那と岳志を見て叫んでいた。
「足腰立たなくなるまでヤッてたんじゃないの!?」
刹那は思わず硬直し、その頬にクリーンヒットが入る。
あまりにも綺麗に入ったもので、岳志も心配して動きを止める。
脳震盪が起こっている。
岳志のヒールでそれが和らぐと、刹那は叫んだ。
「どういう勘違いだ! この脳みそどピンク!」
なんにせよ、あかねの加入でハンデ戦はますます加熱したのであった。
それにしても、学校の級友もそんな勘違いをしていたのだろうか。
昨日の会話を振り返る。
(あれはあれ、これはこれって風に取られてたってわけ!?)
真っ赤になった顔を覆って蹲る。
今日からどんな顔をして学校へ行ったものだろう。
いっそ、休みたいと思った刹那だった。
つづく




