魔界六団騎ギダルム
撮影を終えたエイミーは、椅子に座ってスマートフォンを取り出した。
あずきに明日のスケジュールを送ろうと思ったのだ。
そして、日本の政治家秘書からの着信履歴があることに気がついた。
嫌な、予感がした。
すぐに電話をかける。
「もしもし、エイミーですが」
「ああ、エイミーさんですか。繋がって良かった」
「なにかあったんですか?」
「富士山を監視していた自衛隊から異常が報告されました」
エイミーは息を呑む。
「富士山の火口から、異様な速度で離脱する人影が一つ」
それはつまり、魔界からの来訪者が現れたということだ。
シュヴァイチェか。はたまたまだ見ぬ魔界の者か。
エイミーは心臓がバクバクと鳴っているのを感じていた。
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俺達は河川敷で向かい合った。
俺は無言で相手の出方を伺う。
胸に神秘のペンダントをつけた。
ギダルムが目を見開いた。
「ハハハ、大した魔力だ。お前を喰らえば俺も魔王様のクラスに達するかもしれない」
「一つ、聞く。お前以外の魔界六団騎……だったか? も、こっちに来ているのか?」
「いや? 俺は他人と獲物を共有する趣味はない。お前は俺のものだ。イノウエタケシ」
内心、安堵する。こいつの口ぶりでは、六華やエイミーなども格好の獲物だ。
そして、ならば、今はこいつ一体を始末すればいいだけの話だ。
俺は無言で、お守りを握り、退魔の双剣に変化させる。
「俺を神格クラスの魔力の持ち主と知ってやる気か?」
「魔界六団騎の強さを知らないらしいな。シュヴァイチェだったか。奴程度なら魔王様が庇護しなければ喰えただろうに」
見栄か? そうじゃなければとんでもない話だ。
俺はシュヴァイチェ相手にすら殺されかけたのに。
ただ、一つ思い当たる節がある。
シュヴァイチェには形態変化がある。その形態変化を、こいつは見ていない可能性がある。
それならば、俺とも実力はトントンと言ったところのはずだ。
後は、勝負の経験値の差。
俺は一瞬で、戦闘モードに気分を切り替えていた。
俺は腰を落とし、構えを取る。
その瞬間、ギダルムは跳躍して俺に向かって襲いかかってきていた。
口を開いて、少しでも体の一部を食いちぎろうと目論んでいる。
「甘い」
俺は縮地でその後方に飛ぶと、相手の背後から心臓を刺した。
相手は吹き飛んで地面に叩きつけられる。
しかし、相手は物ともせずに立ち上がった。
泥だらけの姿で笑顔で口から血を流している。
異様な光景だった。
「速いな、お前。面白い、面白いぞ」
地面に着地して、俺は分析する。
速さは俺が勝っている。実力は言うほどではない。
しかし、異様にタフだ。
こちらがいくら打撃を重ねても相手の一発で持っていかれるかもしれない。
これは、どう転ぶかわからない。
つづく




