終わりを告げる平和
クリスマスプレゼントはなにをしようかと思案する。
安倍晴明討伐のボーナスはトレーニング器具にほとんど化けてしまった。
正式な婚約を前に高い指輪というのも相手が恐縮しそうだし匙加減が難しいものである。
バイトが終わり、ベッドに寝転がって考える。
そして、脳裏に自分が投じた甘く入ったカーブが思い返される。
(悔しいいいいいい)
相手は半ば速球を捨てていた。
そこにあれは絶好球と言えた。
迂闊に迂闊を重ねた結果があれだ。
あれさえなければなんとかなっていたのではないか。
久々の敗戦は中々に悔しかった。
遥や京都からはるばる来たあかねの前では良い格好したかったんだけどな。
(ま、今更悔やんでもしゃーないか)
気分を切り替える。
命のやり取りではないのだ。これからも勝負は何度でもできる。挽回すれば良い。
まずは軟式球にあらためて慣れるところから初めなければならないだろう。
しかし、今は寒い時期。オフシーズンだ。外での投球等の速筋を使うには不向きな時期。
室内で筋トレするしかあるまい。
そして、その前にクリスマスだ。
どんなクリスマスを遥にプレゼントするか。
そのことに俺は意識を集中し始めた。
東京に住み始めて一年と半年以上。土地勘は既にある。
ただ、悲しいかな顔は売れている。
二人で静かに、そしてロマンティックに過ごせるデートプランはないものか。
そんな事を考えていると、ドアホンが鳴った。
二度目がなる。
せっかちな客のようだ。
部屋の扉を開けて外に出る。
「ごめーん、調理中だから誰か出てー」
あずきが言う。
「はいはいー」
答えて玄関に向かう。
ドアホンには、まだ無邪気さを残す少年の顔が映っていた。
「何方でしょうか?」
訪ねる。
「イノウエタケシはいますか?」
「どうしてその名前を?」
警戒する。
井上岳志、つまり俺は有名人だ。そして、堕天使達のターゲットだ。それから逃れるために、このエイミー邸で共同生活をしている。
迂闊にここにいると世間に知らせるわけにはいかない。
「隠してもためにならない」
ニイ、と少年は微笑む。
「その場合、この家を破壊してでも探すだけだ」
家を、破壊する? この、小柄な少年が?
「お前、一体、何者だ……? 天使とは、また違った気配を感じる……」
「失礼、紹介が遅れた」
そう言って、少年は深々と礼をする。
「魔界六団騎が一人、ギダルム」
魔界からの、使者?
その事実に、俺は驚愕していた。
俺達の平和な生活は、唐突に終わりを告げようとしていた。
「イノウエタケシの肉を喰らいに来た」
ギダルムは、そう宣言した。
ギダルムの口から覗く犬歯。
喰らわれる自分の姿を想像して、背筋が寒くなった。
つづく




