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裏切り者

 その日、エイミー邸にトイボックス二期生三人が招待された。

 元二期生のあずきと合わせて四人全員が揃ったわけだ。

 全員が食堂のテーブルに付く。


「言っとくけどあんたのドカ盛り料理は遠慮しとくからね」


 このハスキーボイスには聞き覚えがある。

 東雲東だ。

 聞き覚えのある声に、影で聞いていた俺は興奮する。


「えー、雫ちゃんの料理美味しいよぉ」


 天性の癒やしボイス。

 トイボックスのナンバーツー。紅葉ひなの声だ。


「けど限度ってもんがなあ……」


 渋い声で言うのはバランサーとして名を馳せる相模原純恋の声だろう。


「皆久々なのに言いたいこと言ってくれるわね」


 苦笑混じりにあずきも席に着く。

 俺は傍にいるアリエルに耳打ちする。


「気配、感じるか?」


 アリエルは頷く。


「悪霊つきの気配にゃ」


 ならば、確実なのだろう。

 裏切り者は、この中にいる。


「で、なんの用だい? 今、トイボックスにはあんたの代役がいる。悪いとは思うけどそれを無視して四人でコラボってわけにはいかないぜ?」


 とは純恋。


「けどコラボしたくはあるよねー正直。雫ちゃん復調したみたいだし」


 とひな。


「今日は話があって来てもらったの」


 と、あずき。

 あずきは立ち上がる。


「皆、身に覚えがない? 自分達の近辺の情報が、やけに不自然に漏れてるって」


 沈黙が漂った。

 純恋が挙手する。


「私、彼氏いるって具体的に掲示板に書き込まれた」


 東が腕を組んで背もたれに体重を預ける。


「私もデブって書き込まれたなあ。後輩にもそういう被害はある」


「私もチビって書き込まれた」


「その件について今日は話し合いたいと思ってきたの」


 沈黙が漂った。


「もしかして、私達を疑っている?」


 純恋が、疑わしげに言う。


「それは、これから現れる二人が証明してくれるわ。岳志君、アリエルちゃん、入ってきて」


 俺とアリエルは食堂の中に入っていく。

 憧れだったVtuberの演者達の視線を一身に浴びて、緊張がないわけではない。


「わ、アリエルだ」


 ひなが言う。


「アリエルのこと知ってるにゃ?」


「そりゃ個人勢でひなの登録者数超えてるからねえ」


 ひなは呆れたように言う。


「それじゃ、アリエルちゃん、調べて」


 頷くと、アリエルは、まずは東の傍に近づいた。

 そしてくんくんと鼻を嗅ぐ。


「違うにゃ」


 そして、次は純恋の傍にいって同じ動作を繰り返す。


「違うにゃ」


 ひなの表情が青ざめていく。

 そして、ひなは椅子を倒して席を立った。

 その瞬間、俺は決闘のクーポンを起動していた。


 世界が白色に塗りつぶされる。

 白一色の空間。そこに六人は立っていた。


「ここは……?」


 東が戸惑うように言う。

 純恋は目をパチクリとさせていて、現状を把握できていない様子だ。


 ひなだけは、俯いて、肩を震えさせている。

 その影から、筋肉質な腕の生えた蜂が、姿を現した。


「苗床の化身、クイーンビー」


 アリエルが呟くように言う。


「災厄を撒き散らす悪霊にゃ」


「なんで? ひな。私は貴女を妹のように可愛がっていたわ。なんで私の身に危険が及ぶとわかっていながら、相手勢力に私の住所を教えたの?」


 ひなはしばらく黙っていたが、きっと目を上げて、あずきを睨んだ。


「疎ましかったのよ!」


 その一言に、あずきは目を丸くした。


「アンタがいる限り、私はトイボックスじゃナンバーツーだった。そして、転生したと思ったら、あっという間に金盾。エイミーと組んでもっと高みまで行ってしまった。私だって頑張った。努力した。けど、トイボックスって箱じゃ限界があった。今は、あんたが憎い!」


「そっか、私の存在が今の貴女には負担だったか……」


 そう言って、あずきは俯く。


「けどごめんね、私にも大事な人達ができたし、配信は大好きだ。譲ってはあげられない。それにね、ひなのことは今でも大好きだよ」


 ひなは目を丸くする。

 その瞬間、俺は縮地を使って、クイーンビーの頭部を吹き飛ばしていた。

 ひなが、憑き物が落ちたようにその場に崩れ落ちる。


「私は、なんであんなことを……」


「悪霊に憑かれたら、皆心の弱い部分が出ちゃうの。けど、もう大丈夫だよ。元のひなに戻れるよ」


 そう言って、あずきはひなを抱きしめる。

 敵わないな、と思う。事務所と契約解除まで追い込まれ、命の危機にまで陥れられたのに。やはりあずきは、皆のお母さんなのだ。


「ひなのこと、許してくれるの?」


「許すもなにも。ひなは私の妹分だよ」


「私達はそうもいかないけどな」


 そう言って剣呑な表情で二人の傍に近寄る人物が二人。


「誰がデブだって?」


「彼氏バレあんただったのね?」


 ひなの表情が青ざめていく。


「どうするにゃ?」


 アリエルが俺に問う。


「後は当人同士で気が済むまで話し合ってもらうしかなかろう」


 そう言って俺は決闘のクーポンを解いた。

 世界が元のエイミー邸の食卓に戻る。

 喧々囂々と響くVtuber達の美声。

 それを聞きながら、俺はその場を後にした。


 幸い、あずきには悪霊つきに関する知識もあるから、ある程度落ち着くところに落ち着くだろう。

 それに、これだけ締め上げられれば今後この家の情報が他所に漏れることはなさそうだった。



つづく

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