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一生愛してる

 飛行機で成田空港についた。

 そこからタクシーでエイミー邸に向かう。

 あかねも挨拶をしたいとのことでついてきた。


「ただいまー」


 ドアホンを押して声を掛ける。


「知らない人の声ですね」


 六華の冷たい声が返ってくる。


「お前の実の兄の声のはずだが」


「知らない女と外泊した人のことなんて知りません、お帰りください」


 世界の命運の為に頑張ってきたんだけどなあ。

 あかねと同じ部屋に泊まったのは事実だけど一晩語り明かしただけだし。

 まあ、同じ部屋に泊まった時点でアウトと言われたらそれまでなのだけど。


 それきり、ドアホンは沈黙を保った。

 いやまて、本当に俺締め出されるのか?


 慌ててドアホンを二度、三度と鳴らす。


「岳志君? お仕事大変だったわね、今開けるわね」


 あずきだ。

 話の分かる人が出てきて助かった。

 エイミー邸の最年長者にして良心だ。


 あずきが出てきて門の鍵を開ける。

 そして俺は、数日ぶりに帰ってきたエイミー邸の中へと入っていった。

 あかねも入ってきて、出迎えに来た紗理奈に片手を上げる。

 紗理奈も軽く手を上げる。


「北海道どうだったー?」


「観光って暇もなかったわねー。爆速で終了って感じだったから。岳志の魔力は本物よ」


「でしょうね。あんたの集束と岳志の魔力があれば大体の敵は倒せたでしょうよ」


 アリエルもやって来る。


「首尾はどうにゃ?」


 首にぶら下げたネックレスを掲げて見せる。

 アリエルは満足げに頷いた。


「順調にゃね。女神様の神託があったにゃ。残る道具はあと二つ。それを破壊する神器も今神界で作られている最中らしいにゃ」


「あと二つ、か……」


 それを揃えて破壊すれば日常に帰れるという寸法か。

 終わりが見えてきたということに俺は安堵する。

 雛子が遅れて出てきた。


「岳志君北海道行ってたんだってー? お土産はー?」


「白い恋人」


「サンキュ。しかし唐突だったねえ」


 エイミーに手を引かれて、遥がやってきた。

 遥は、少し居心地が悪そうな表情をしている。


 あかねが、遥を見て、微笑んで口を開いた。


「岳志は、私がもらうわ」


 それは紛れもない宣戦布告だった。


「私の実家は太いし、陰陽師としてのノウハウもある。政界にもツテがあるし、岳志の才能を野球面でも退魔師面でもバックアップできる。なにより、何不自由ない生活を保証できるわ。貴女は、なにができるかしら?」


 あかねは不敵に微笑む。

 俺は慌てた。


「なに言ってんだあかね! お前、挨拶についてくるって、そんなことを言う魂胆だったのか!」


「岳志の才能は千年に一人だわ。逃す手はない」


 当然だ、とばかりにあかねは言う。


「私が岳志にできることは……」


 唐突に挑戦状を叩きつけられて唖然としていた遥は、呆然としていたが、顔を背けた。


「なにもないわ。精々、勉強を教えることぐらい」


 淡々とした口調で言う。


「それに、私には愛がわからない。貴女と一緒にいたほうが、岳志は幸せなのかもしれない」


「決まりね」


 俺は慌てた。


「待て待て待て!」


 俺は二人の間に割って入る。


「まずは遥と勉強して高認を取って、大学に入る。大学野球で良い成績を出して、良い就職先を勝ち取る」


 俺は語る。自分の中に思い描いていた人生設計を。


「遥と結婚して、子供を作る。猫を飼って、二人で育てる。二人で歩むんだ。施されることも、用意されることもなく、二人で掴むんだ。二人で協力して、掴んでいくんだ」


「あえて苦難な道を行く理由は?」


 余裕の表情であかねは問う。


「俺が遥を愛しているからだ」


 俺は断言していた。


「物覚えが悪いバイトの俺を、辛抱強く育ててくれたのは遥だった。さりげなく自炊の本を渡してくれたり、アドバイスしてくれたり。高認って道を示してくれたのも遥だった。俺に未来を見せてくれたのは遥だった。なにもないフリーターの俺を、遥を拾い上げてくれた。だから、俺は、遥を幸せにしたい。二人で幸せを育みたい。遥は俺にとって未来の象徴なんだ。俺は遥を一生愛してる」


 沈黙が漂った。

 あかねはふっと苦笑する。


「そこまで聞ければ十分よ。決意が硬いのはわかった。今のところは身を引いてあげるわ」


 そう言うと、あかねは客間に向かって歩いていった。

 俺は、遥を見た。

 遥は、戸惑うように俺を見ている。

 その背を、エイミーが押した。

 遥は数歩前に進み、その後、自分の意志で歩み始めた。


 そして、俺の前に立つ。

 強がって、普段通りの表情になる。


「良かったの? 資産家みたいよ?」


「俺の気持ちは、今言った通りだ」


「私、なにもないわよ。ほんっと、ただの大学生。エイミーみたいに有名人でもないし、雫みたいに家事も上手くないし、あかねさんみたいに資産家でもないし、アリエルみたいに可愛くもない」


「俺は遥が良いんだ」


 遥は目を見開いた。

 その脳裏に、様々な思考が駆け巡っていくのがわかる。

 それは一つの理解に到着し、それは柔らかに溶けていき、彼女の体に満ちていった。

 彼女は、苦笑した。


「馬鹿ね」


 そう言って、彼女は俺を抱きしめた。


「二人で歩いていこう。時々、すれ違うこともあるかもしれないけど」


「後悔するかもよ。私、アリエルと同棲してたことも根に持ってるからね」


 背筋に冷や汗が一筋流れ落ちる。


「けど、社会人野球の選手を支える奥さんになるのも良いかもしれないわね」


 そう言って、遥は俺を離した。

 わだかまりは、解けた。


 俺は戸惑った。

 遥が、泣いていたからだ。


「俺、なんか悪いこと言ったか?」


「ううん、なんか、感情が昂っちゃって。多分この感情は、今まで私になかったものだ」


 そう言って、しばらく遥は目を拭い続けた。



つづく

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