圧倒
遥はバルコニーに出て夜空を眺めていた。
考える。岳志のことを。
岳志を異性として意識し始めてから色々なことがあった。
これは本当に自分がしたことなのだろうか、だなんて行動もいくつもある。
恋は自分を大胆にもしたし、詩人にもした。
感情の浮き沈みも激しくなったし、満たされている期間が長くなった。
ただ、恋人は家族より近く、家族より遠い。
家族より親密になるが、家族ほど思っていることを口に出してはくれない。
相手のことを思いやる気持ちが大事になる。
それも、少々疲れてきたかもしれない。
今後、岳志はどんどん高い舞台へ駆け上っていくだろう。
もちろん、自分のサポートは必要だろうし、するつもりはある。
けど、恋人という役につき続けるのは、自分にとって精神的なメリットとなり続けるだろうか?
遥は、暫し考える。
箱から出てきたエイミーの下駄が、脳裏に焼き付いていた。
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「ファイアアロー!」
炎の矢を、外野から捕手に返球するイメージで投擲する。
脳内分泌物が排出され、テンションが上り、それは魔力の高まりに繋がる。
「ふん、こんな初期魔術……」
そう言って、相手は風の結界を張った。
その風の結界を貫き、相手の心の臓も貫いて、レーザービームは一直線に空へと飛んでいった。
「ば、馬鹿な!? 初期魔法……だ……ぞ……」
そう言って、堕天使は血を吐いて地に堕ちた。
「なんだと!?」
戸惑ったのはもう一人だ。
呆気なく敗北したもう一人を見下ろして、唖然としている。
「余所見しているとは余裕ね」
あかねが囁く。
あかねは宙を浮いていた。
元々術のコントロールに長けたあかね。
莫大な魔力を得た今、その全てを余すことなく使い切り、術を創造していた。
堕天使は振り向く。その手に、剣が現れる。
「私が話しかけたってことは、もう遅いのよ」
そう言ってあかねは両手を差し出す。
「あんこく」
バスケットボール大のブラックホールが現れる。
刹那が言っていた。安倍晴明はブラックホールを操ったと。
しかしそれは、野球ボール大だったとの話だ。
素の魔力量の高さでは安倍晴明に軍配が上がるが、術のコントロールという側面ではその後数百年も研鑽を積んだ家系のその子孫のあかねの方が上ということか。
バスケットボール大のブラックホールは一瞬で堕天使を吸い込み、無に帰した。
あかねは地面に着地する。
俺は決闘のクーポンを解除する。
周囲が、元の世界に戻る。
あかねがつかつかと俺の傍に歩み寄ってくると、両手を握った。
「結婚しよう!」
突然の言葉に俺は吃驚した。
あかねは目が真剣だ。
「いや、俺、彼女いるし……」
「ヤッてもないしキスもしてないんでしょ? 引き返すなら今今。私に乗り換えなさい。家の太さなら私のほうが上よ。一生生活には苦労させない。一緒に陰陽師として切磋琢磨しましょう」
やばい、なんか盛り上がってる。
俺から集束した魔力はそれほどあかねにとって革命的だったらしい。
「えっと、まずは、神秘の道具を回収しよう。細かい話はそれから」
それにしても、天使クラスをあっさり討伐してしまった。
シェリアルと安倍晴明。
神クラスの経験値はやっぱり桁違いだなとしみじみと実感する一幕だった。
つづく




