光の道の先で
「なんでお前なんだ!」
俺は叫んでいた。
共に部を変えようと誓いあった相手。
共に野球部全盛期を作り上げようと誓った相手。
その相手が、俺を野球部から追い出した張本人だったとは。
相手は、俺を睨んで、言った。
「俺が言いたい。なんでお前なんだ?」
その不可解な質問に、俺は眉をひそめる。
相手の影から伸びるドラゴンが息を吸い、吐いた。
炎のブレスが吐かれる。
俺はそれを、ファイアアローで相殺した。
「俺だって子供の頃から野球をしてきた。シニアでも真剣に野球をやってきたし、野球名門校からもスカウトが来た。このままプロへの道が開けたと思っていた。そんな中でも、お前は明らかに異質だった」
相手は、憎悪を込めて言う。
「なんでお前なんだ! なんで神様はお前を選んだ! 光の当たる道。その道を歩く選ばれた人間。何故それにお前を選んだ!」
ドラゴンが再びブレスを吐く。
ファイアアローで相殺する。
徐々に接近しつつある。
相手の弱点はむき出しになっている喉。
そこを狙って、二刀を振るおうと決めた。
俺はそんなにお前にとって苦痛だったのか?
そんなことを思う。
俺はただ、野球が楽しかった。
プレーするのも、練習するのも、上達するのも、楽しかった。
お前はそれじゃ駄目だったのか?
お前は野球が好きじゃなかったのか?
問いたいことは山ほどある。
けど、語る時間はとうに過ぎてしまった。
相手に偽りの仮面を被らせたまま、無為に過ごしてしまった。
今はそれを悔いるしかない。
射程圏内に入った。
跳躍する。
レベルアップの恩恵を感じる瞬間。
四メートルは高々と飛んだ。
左の刃を振るう。
ドラゴンはそれを右手でガードした。
「織り込み済みよ!」
素早く右の刃を最短距離で振るった。
喉が切り裂かれる。
鮮血が雨のように降り注いだ。
ドラゴンは音もなく、倒れ伏した。
レベルアップ、という単語が俺の脳裏に浮かび上がる。
同時に、サンダーアローを覚えました、という言葉が浮かび上がった。
「ああ……俺の憎しみが消えていく……」
相手は、呟くように言う。
そして、憑き物が落ちたように泣き出した。
「……俺はお前に、酷いことをした」
「気にすんなよ。親の本性が知れてむしろ良かった」
これは本音でもある。
「やめんなよ、野球。大学野球で、光の当たる道の先で、お前は野球を続けてくれ」
そう言って、相手は本格的に泣き出してしまった。
「なに一人で盛り上がってるにゃ、こいつ」
アリエルのいつもの空気の読めない発言だが、今はやや同意。
相手の感情の高低差についていけない面がある。
こういうメンタルだから悪霊に取り憑かれたのかもしれない。
しかし、光の当たる道で、か。
「任された。俺は、俺のできる場所で、できる限りの、全力プレーをするよ」
「約束だ」
相手は、もう片方の手で顔を覆ったまま、拳を差し出す。
俺は、その拳に、拳をぶつけた。
「ああ、約束だ」
視界が揺らいでいく。
そして、俺達は、元いたグラウンドに戻ってきていた。
野球部員達は戸惑うように周囲を見ている。
俺達はその傍をそっと駆け抜けた。
「あの」
背後から声をかけられて、その声の主にぎくりとした。
「貴方達は、何者なんですか?」
そうだ、この人のことをすっかり忘れていた。
幸子が、戸惑いを隠せない様子で、俺達を見ていた。
続く




