エイミーの秘密
「やっぱ岳志じゃんか、久々だなあ」
そう言って近づいてくる茶髪の青年に俺は戸惑った。
しかし、遅れて彼の顔に幼少期の面差しがあることに気づく。
小学校で一緒に野球をしていた半平太だ。
懐かしさが俺の中で膨れ上がる。
「おお、半平太。茶髪にしたのかよ、一瞬気づかなかったぜ」
「俺も高校生だからな、ちょっとはキメねえと。しかし、お前は遠くに行っちまったなあ。今や有名人だもんな」
「過去の有名人だよ。今年の軟式野球大会は中継されるなんてこともないだろう。去年が異常だったんだよ」
そう、偶然に偶然が重なりすぎた。
事件に解決を解決を重ねたヒーロー。そんな偶像になった結果、軟式王子フィーバーなんてものが起こって、一躍時の人になった。
しかし、半年もすれば人は忘れるものである。
「結局今じゃフリーターだからなあ。高認とって大学目指してるよ」
「そっか、目標持ってるんだな。俺も大学進学したら東京行こうと思ってるよ。人、多いんだろ?」
「ビビったよ。最初行った時は祭りでもやってんのかと思った」
そして、ふと気づく。いつの間にかエイミーがいない。
「エイミーとはまだつるんでるのか?」
半平太が問う。
「ごめん、ちょっと用事を思い出した。また、話そうな。ライン交換すっか」
「そうか? じゃ、スマホ出すな」
そうして、ラインを交換して、半平太と別れた。
エイミーがいる場所は大体想像がつく。
グラウンドの柵を超えた向こう。
森の中の木の枝が垂れ下がったところ。
そこにエイミーは腰掛けていた。
「なんで逃げるんだよエイミー。半平太は別にお前を嫌っちゃいなかっただろ?」
「私はコロナで休養中なんだよ。こんな田舎だ。あっという間に噂は広がっちゃう。またネットであれこれ言われるのは嫌だしね」
そう言ったエイミーには珍しくいつもの溌剌とした元気がない。
「宿、いこっか」
そう言われて、俺は促されるままにバス停に向かった。
三十分も待つと、バスが五分遅れでやってきた。
平日の三時頃である。老人ぐらいしかいない。それも、点々と。
バスの運行時間を減らさないとやっていけないわけである。
田舎では車の所持率が高い。
車がなければ店まで遠すぎるのだ。
自然、バスのような公共交通機関は割を食う形となる。
しばしバスに揺られて、ホテル近くのバス停に辿り着いた。
エイミーと別れて、ホテルの部屋について、なんとなくスマートフォンを開く。
またネットであれこれ言われるのは嫌だしね。
そんなエイミーの一言が引っかかっていた。
エイミー、不倫、のキーワードでなんとなく検索してみる。
すると、すぐにページがヒットした。
ネットの掲示板だ。
『エイミーキャロラインは不倫で生まれた子供だよ。地元の人間なら誰だって知ってる。それがなんであんな公共の電波で芸能人ヅラしてるの? クリーンなイメージで売ってるのも理解できない』
一発目でヒットした書き込みがそれだった。
俺は、真顔になった。
続く




