着いちまったなあ
「にゃ!?」
アリエルが悲鳴のような声をあげる。
「一時間に一本しか電車がないにゃ!?」
周囲の人々が訝しげにこちらを見る。
とりあえず、アリエルの頭を叩くと、俺達はいそいそと電車に向かった。
電車は丁度停車中だった。
二両編成の電車に乗り、ボタンを押してドアを閉じる。
そのうち、電車が走り始める。
椅子に座り、揺られること十数分。
俺達は地元に帰ってきた。
相変わらずの寂れた場所だ。
駅前はシャッター街。
外からの新しい風が入らない場所。
内だけで完結している場所。
それ故に空気が籠もりやすく、風通しが悪い。
だから、エイミーのように、大人からも子供からも迫害されるような人間というのが出てくる。
どこの田舎でもありがちな、孤立しているがゆえに異質化した空間。
「帰ってきちゃったね」
エイミーがしみじみとした口調で言う。
「着いちまったなあ」
俺もしみじみとした口調で言う。
「つい地元方面に足を伸ばしちまったが、宿に行くにはバス乗らなきゃな」
「バスは一時間に何本出るにゃ……?」
アリエルが不安そうに問う。
「基本一本か二本」
「こんなことならあずきを頼るべきだったにゃ。運転できる人材は貴重だにゃ」
「巻き込むわけにはいくまいよ。時間もあるし、ちょっと地元回ってくから、お前は駅で待ってろよ」
「ついてくにゃよ」
「そういや富山ブラック食べる?」
エイミーが面白がるように言う。
北陸を代表するラーメンの一つだ。
「ばっか。北陸人のソウルフードと言えば八番ラーメンだろう」
「八番ラーメン?」
アリエルが不思議そうな表情になる。
「北陸を本拠地にチェーン展開してるラーメン屋だよ。ともかく北陸に多い。金沢なんて行ってみろ。ちょっと走ったら八番ラーメンの店舗が見えるぞ。北陸人といえばホワイト餃子よりも富山ブラックよりも八番ラーメンなのだ」
「それはちょっと主観入ってる気もするけどね」
エイミーは滑稽そうに言う。
しかし、野球大会の打ち上げなんかは大抵八番ラーメンだったものだ。
「んじゃ、久々に学校でも行くかね」
そう言って、坂道を昇り始める。
そのうち、小学校が見えてきた。
グラウンドには、関係者以外立ち入り禁止の看板。
OBだから関係者だろうと構わず入る。
エイミーがブランコに乗り、サングラスを取る。
そして、面白がるように俺を見上げた。
「もう一度、私の王子様になってくれませんか?」
俺は幼いエイミーを幻視して息を呑む。
そして、溜息を吐いてそっぽを向いた。
「馬鹿言ってんじゃないよ。ほれ、バス停まで行くぞ」
そう言って逃げるように歩き出す。
エイミーはサングラスをかけると、面白がるように後を付いてきた。
「で、拠点の宿を抑えるとしてだ。パワースポットってのはどの辺りなんだ?」
「山だにゃ」
「山?」
「立山の根本だにゃ」
「……遠いな」
俺は考え込んだ。
立山。富山県の山だ。
標高は確か三千メートル以上。
天辺だと言われなかったのは幸いか。
(移動手段も調べとかないとな)
まあ幸いエイミーがいる以上タクシーでもなんでも潤沢に使えるだろう。
情けない話だが稼ぎの額が違う。
「おい、岳志か?」
声をかけられて、俺は目を丸くした。
続く




