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急造タッグ

「エイミー・キャロライン」


「エイミーでいいよ」


 語尾に音符でも付きそうな口調でエイミーは言う。

 しかし、声は所々震えていた。

 初めての実戦が半神だ。仕方ないだろう。


「エイミー。あの人魂は即死攻撃です。触れたら死にます」


「死っ!?」


 エイミーが悲鳴のような声を上げる。


「それ結構速い?」


「身体能力向上術を極めた私が全速力で逃げてやっと散らせる程度には。クーポンの世界の岳志なら軽々振り切れるでしょうが」


「あー、それはヤバいな。私その身体能力なんちゃら系の術全然教えてもらってないし、運動もハイスクールでやった程度だよ~」


「へ」


 刹那は唖然とする。

 物理回避特化の刹那と術特化のエイミー。例えるならば戦闘機と重戦車だ。真逆過ぎる。


(この状況において、この人、もしかして……)


 足手まといなのでは、と思うのをすんでのところで踏みとどまる。

 晴明の複合術式を破った術は本物だ。

 つまりは、大砲として機能すればそれでいい。


「なら、エイミー、こうしましょう。私が貴女を人魂から遠ざけます。貴女は晴明への攻撃に集中してください」


「大丈夫? ギリギリ避けそこねたりしない?」


「大丈夫。一応プロなんで」


「年上の言うことは素直に信じとくかぁ」


「岳志にも勘違いされたけど、私、年下です。車は運転してもいいって特例で許可降りてますけどね」


「へ」


 エイミーは言葉を失った。

 こうしている間にも晴明の回復は進んでいく。

 こういうのが戦闘経験不足なところだよな、と思う。

 若干心許ない。

 アドリブとかも利かなそうだし、自分がフォローしなければ、と思う。


(まったく、こういうのはあかねや紗理奈の領分だ!)


 刹那は有無を言わせずエイミーを抱き上げると、移動を開始した。


「攻撃を集中して!」


「あいよ!」


 光が次から次へと上空から降り注ぐ。

 それは人魂も闇も全てをかき消して相手を焼いていく。


「貴女のその光、どういう理屈で複合術式を突破してるんですか?」


「陰陽連の爺様には空間の上書きって言われてた」


 当たり前のことのように言われてぞっとした。

 つまりそれは、理を捻じ曲げているということ。

 術そのものが自然の理を捻じ曲げているように見えて法則性がある。

 それらを無視する彼女の光は正に神の所業だ。


 模造の神、しかし神。

 舐めていたな、と思わせられる刹那だった。


「けどおかしいな……光当ててるのに……相手の気配が強くなっているような……」


 エイミーが不安げに言う。

 刹那もそれは感じていた。

 むしろ、晴明の力の上昇はここに来て爆発的に加速したと言っても良い。

 なにかの枷を外されたかのような。


(神同士、呼応している……いや? 吸収? 違う。くそ、あかねや紗理奈レベルの術知識があれば)


 幾度目かわからぬ光が晴明を貫いた時、彼が雄叫びを上げた。

 次の瞬間、闇が爆発的に広がった。


 刹那はエイミーの負荷を度外視してトップスピード乗り、病院の外に出た。

 次の瞬間、病院は完全に消滅していた。

 爆弾でも落とされたような荒れ地だけが後に残る。


 その中央で、晴明はぜえぜえと荒い呼吸を繰り返していた。

 そのたびに、筋肉が蠢いて、膨れ上がる。


(そうか、ジリ貧と見て戦いを放棄して、耐久できるうちに自分を作り変えた……? だとすると、私の身体能力向上術のアドバンテージは……)


 マズイ。

 その三文字が頭に浮かんだ。

 次の瞬間、十個の人魂と筋肉で膨れ上がった安倍晴明が刹那に向かって突進していた。

 トップスピードでは流石に刹那が上。


 しかし、さっきみたいな闇の暴走をされたならば。


「エイミー、飛んでくれますか!」


 刹那は言う。


「せっちゃんも!」


「ええ!」


 刹那はエイミーに手を引かれて上空へと移動する。

 首のロザリオを握りしめて槍へと変化させて、投じる。

 それは、闇に触れて消滅した。


 身体能力を向上させつつ闇は維持。さらに人魂は増加。

 実質的な形態変化。


(ほんっと、半神ってなんでもアリだな)


 しかしこちらも上空から延々と攻撃できると言うメリットがある。

 回避の必要性を失った刹那は身体向上術を解いた。

 そして、複合術式を攻撃へと転化させる。


「二人で上空から延々やりますか」


「半神って本当なんでもアリなんだねえ」


 エイミーは呆れたように言う。


「人は成長が速いが限界に達するのも速く、神は元々のスペックが高く限界がないとされています。半神は両方の良いとこ取りみたいなもんですからねえ」


「じゃあ……その気になったら飛べたりもするのかな?」


 エイミーが世間話のように言った最悪のパターンの想定に、刹那は不味いものでも飲み込んだように黙り込む。

 その可能性には思い至ってなかった。


「有り得る……かも」


 だとすれば、最強だ。

 縦横無尽に飛び交いながら広範囲に全てをかき消す闇を展開すれば良い。 

 ゲームならばクソゲーだと非難殺到だろう。


 そして、嫌な予感というのは往々にして当たるものである。

 晴明は、宙に浮いた。


 エイミーができるのだ。

 それは少し解析すれば晴明にも模倣できるだろう。


 そして、熟練の術師の、莫大な魔力を注ぎ込んだ浮遊術である。戦闘機のような速度でエイミー達に肉薄した。


「タッグ解散、ですね」


 刹那は溜息混じりに言うと、身体能力向上術を再開して、エイミーを全力で投げ飛ばした。

 そして光を宿して晴明に立ち塞がる。


 エイミーには未来がある。

 社交性があるし刹那が生きるよりよほど友達も増えるだろう。

 それが生き延びる可能性を高めれたなら、良しとしよう。


 正直なところ、あんこくの時点で死んだと思った身だ。

 それが十分間程生き延びただけでも、刹那は十分に覚悟ができていた。


 闇が爆発的に膨れ上がる。

 次の瞬間、晴明の腕は刹那の体を貫くだろう。


「お疲れ、私」


 それぐらいしかもう言葉が思い浮かばなかった。

 晴明は十全に力を発揮できていない。あかねの分析は正しかった。

 それを活かせなかったのが心残りだ。


「とはいかないんだな」


 その声で、心の中に桜吹雪が吹いた。

 周囲が一瞬で白い空間に塗り替わる。


「光を消せ、刹那!」


 言われるがままに光を消す。

 次の瞬間、刹那は抱き上げられていた。

 爆発的に膨れ上がった闇の範囲からも抜け、生き延びていた。


「良く耐えた、刹那」


 そう言って、彼は着地する。

 涙腺が緩む。

 心の何処かで待っていた。

 彼ならばなんとかしてくれるのではないだろうかと。


 けれども、間に合わないだろうと諦めていた。

 けれども彼は間に合わせたのだ。

 堕天使達を片付けて。


 退魔師、井上岳志がその場に参戦していた。



続く

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