三階堂陸の危機
三階堂陸の得意技は使役だ。
鬼を召喚して使役することができる。
だからたった一人で結界の地を任せられた。
しかしイレギュラーというのは往々にしてあることで、今の状況はまったくもってイレギュラーだった。
陸は胸の位置までが氷漬けになっていた。
召喚した鬼達は全身が氷漬けになっている。
霜だらけになっている部屋の中で、薄着の氷の精霊が結界の中央部の光に手を添えている。
「少し待っておくれ。肝心部分の解析さえ終えれば開放してあげるから」
「お前達の目的は、やはり、安倍晴明の復活か」
陸は憎しみを込めて氷の精霊を睨みつける。
「さてね。我々の目的を話したところでどうなるかしら。貴方達に止められることでもない」
嘲笑を込めて氷の精霊は言う。
陸はますます憎悪を深める。
その感情が、ある音を聞いて緩んだ。
頬も緩む。
「じゃじゃ馬お姫様の到着だ」
それは、ヘリコプターの音。
六階道刹那と井上岳志の到着を告げる音。
氷の精霊の顔が僅かに強張った。
「凍ってしまえば同じこと。私の属性は氷。全てを凍らせて見せる」
その胸に、青い槍が突き刺さった。
コンクリートの屋根をぶち抜いて、それでも勢いを殺さずにそのまま氷の結界をも貫いてそのまま氷の精霊に突き刺さった槍。
それは持ち主の手を離れたことで、ロザリオに変わって地面に落ちた。
「ば、馬鹿な……」
そう言うと、氷の精霊は空中でふらついて、自分の空けた穴から外へと逃げていった。
入れ替わりに、刹那達が入ってくる。
「おせーよ六階道」
陸は苦笑交じりに言う。
「できるだけ全速力で来たつもり」
困ったように刹那は言う。
これだ。
冗談を受け流す器用さもないほど純粋なのだ。
「氷を溶かします。一旦、俺の空間に転移させます」
「ああ、頼む」
新しい時代が来ているのかもしれない、と陸は思う。
精霊以下に甘んじていた時代から、精霊以上の才能を持つ人間が実力を発揮する時代へ。
ならば、取り残されるのは自分だろう。
陸は目を閉じて苦笑した。
刹那が眩しくて、見ていられなかったから。
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建物から出ていく氷の精霊を見て、黒猫は気を引き締めた。
視線から外れないように、屋根の上に飛び乗り、追跡を開始する。
念願の時は遂にやってきた。
続く




