刹那の覚悟
「刹那!」
あかねが叫ぶ。
刹那は反応して、一瞬振り返る。
「私の集めた力、あんたに、貸す!」
そう言って、あかねは両手を前にかざして、緑色の玉を放った。
刹那はそれに体当りする。
その瞬間、刹那は強風をまとっていた。
「これでいい」
あかねはそう言って両手を下ろす。
「これで刹那はバリアを破ってくれるはず。私も破れるだろうけれどその手は一度見せてしまった。近接で近づける彼女の方が確実」
「近接で近づけるって……焼けないか?」
相手は高温の炎のオーラに包まれているのだ。
「私の送った力を防御と攻撃に振り分ければ自分の身を守りつつ攻撃できるはずよ」
そう、淡々とあかねは言った。
「さあ、軟式王子。トドメの一撃の準備にかかって」
魔術はイメージ。今は行方不明になった相棒の口癖だ。
頭の中で思い描く。炎を貫く氷の槍を。
その触れるだけで凍りそうな冷たさは容易に想像できそうだった。
刹那は相手の突進を躱しながら、迷い子のような表情をしていたが、そのうち覚悟を決めたような表情になった。
勝負の時間だ。
試合開始を告げるサイレンの音を思い出す。
勝負の歯車がカチコチと動き出す。
それは勝利をもたらすか、敗北をもたらすか。
どちらにしろ、ベストを尽くす準備は既に整った。
命がけではないにしろ、勝負した回数が人並み外れて多い。俺のアドバンテージの一つだ。
そうだと思った瞬間に、スイッチが入ったように心が整うのだ。
刹那の膝に緑色の光が集束していく。
次の瞬間、刹那は炎の精霊に膝蹴りを見舞っていた。
「ばっ」
あかねが叫ぶ。
炎のオーラに大穴が開く。
そして、強風が炎の精霊の腹をへこませる。
しかし同時に、刹那もただでは済まなかった。
炎があっという間にその全身を包む。
それに驚かなかった訳では無いが、今の俺は炎の精霊を倒すことだけに全力集中していた。
氷の槍の具現化、成功。
それを、ストライクゾーンのど真ん中に構えられたキャッチャーミットをイメージして投げ込んだ。
槍が走る。
炎のオーラの穴をすり抜けて、炎の精霊の胸を貫いた。
炎の精霊は、きょとんとして、信じられないとばかりに貫かれた自分の胸を見ていた。
「馬鹿な、天界大戦を生き延びた我が、こんな人間界などで……」
その体が、砂のようにさらさらと砕け散っていく。
俺は次の瞬間、急いで刹那の傍に駆け寄っていた。
炎は消えていた。
しかし、その呼吸は荒く、全身は酷く焼けただれていた。
風に守られていた膝だけが、衣類を残している。
続く




