久々の声
「ふぅ」
マンションのベッドに倒れ込む。
ここしばらくの疲れがどっと出てきた。
思えば、アリエルがいなくなってから気を張り詰めっぱなしだ。
あの後、俺と刹那は病院の外での待機を命じられた。
その後、陰陽連の特別チームの到着と交代に自宅待機を命じられた。
客分だからと良いように使われた形だ。
刹那に関しては信頼されていないということだろう。
紗理奈は結界の修復に集中しているらしい。どうやら、そう言った方面に才があるらしい。
六大名家と一口に言っても身体能力の刹那、刀剣技術の与一、呪法技術の紗理奈と得意分野がまるで違うようだ。
しばらく寝そべって考える。
敵は安倍晴明の封印の結界の地を知っているのだろうか。
ならば、今後はその地を守る攻防戦が激しくなるだろう。
もし、天使クラスが出てきたら?
アリエルなしに対処できるだろうか。
精霊クラスならば、エリセルを倒した経験値で大幅にレベルアップした今の俺の敵ではないことが実証された。
しかし、天使クラスは未知数だ。
些か、憂鬱になってきた。
その時、スマートフォンが着信音を鳴らした。
画面を見て、飛び起きる。
先輩からの着信だった。
慌てて、電話に出る。
「もしもし」
思わず、声が上ずる。
「もしもし、数日ぶりだね」
先輩の落ち着いた声が身に染み入る。
そうか、別れてまだ数日しか経っていないのか。
「勉強ちゃんとしてるかい? エイミーの話だと随分忙しいみたいだけど」
「あー、ちょっと勉強してる気力ないかも。ちょっと、疲れてる」
「そっか。お仕事で行ったんだもんね。けど、勉強はしないと駄目だ。癖にしとかないと」
「善処するよ」
話しているだけで、乾いている紙が潤いを得たように元気になっていく。
先輩は俺の心の潤滑剤なんだな、と改めて感じさせられる。
「ほんとかー? 口だけじゃないかー?」
「善処するってば。こっちも大変なんだよ。アリエルとははぐれるし。敵はなんか内部にまで潜り込んでるし」
流石に、失踪したとは言えない。
「……本格的に大変そうだねえ」
先輩がシリアスなトーンになった。
「ま、元気でやってるけどね」
少し、強がり。しっかりした自分と思っていてほしい。
空元気が、元気になった瞬間だった。
「京都の平和は俺の肩にかかっているのだ」
「私はそれより普通の大学生になってほしいよ」
先輩の苦笑交じりの表情が目に浮かぶようだった。
「それじゃ、もう少しかかるみたいだね。体にだけは気を付けて。あと、三食しっかり食べるんだよ」
「ありがとう。どうなるかわからないけど、もう少し頑張ってみるよ。できるだけ早く帰るようにする」
いつ頃帰れるかは正直未知数だ。
夏までに決着が付けば。そう思っている。
「待ってるよ。また、デートしよう」
「うん、約束だ」
「約束。じゃあね」
そう言って、先輩は電話を切った。
俺はスマートフォンを抱きしめ、ベッドに再び寝転がる。
数日ぶりの癒やしの時間だった。
今なら、天使だってなんだってかかってこいって気分だった。
その時、スマートフォンが再び着信音を鳴らした。
登録していない番号からだ。
訝しく思いながらも電話に出る。
「もしもし」
「もしもし、岳志?」
この感情を感じさせない声は刹那のものだ。
「六階道か。どうしたんだ。除け者同士仲良くしようってか」
「その除け者同士が必要とされている」
予想外の言葉に俺は戸惑った。
「結界の状態を見て、安倍晴明の封印の結界の情報が流出していると上は断定した。結界の地に戦力を今集結させている最中」
「それが無難だなあ」
「私と貴方は遊撃軍。襲撃を受けた結界地を援軍として助けに行く」
「……つまりあんたとツーマンセル?」
「不服?」
正直この人、なに考えてるか良くわかんなくて苦手なんだよな。
「いやいや、そんなことは。了解したよ」
「じゃあ明日から待機に入る。私の家に来て。自家製ヘリがあるから」
どうやら随分金回りが良いようだった。
続く




