真っ白な世界で
世界が白に染まる。
少年は目を丸くしたが、すぐに警戒するような表情になった。
「空間生成。そうか、お前が女神の――」
俺は間髪入れずに動いていた。
精霊との戦いは経験がある。
「このスペル。本当は悔しい記憶と紐づいてるから使いたくないんだけどな」
唱える。コールドレイン、と。
雨の降る試合。俺の番まで打順よ回れと祈ったあの試合。
無念にもコールドゲームで試合は終わり、雨に打たれて絶望に打ちひしがれた。
鬼瓦への敗北の記憶。
さらに唱える。
クリエイトウィンド、と。
降り注ぐ氷の刃。
それが強風によって向きを変えて、少年に向かって襲いかかる。
少年は目を見開いて、風のバリアを張る。
隙は出来た。
俺はレベルアップで培った脚力、縮地とも言えるその速度で一瞬で少年の首を断っていた。
そして、着地する。
クーポンの世界を閉じる。
仲間は三人とも、唖然としていた。
「ああ、精霊とは以前戦った経験があるんだ。アリエルの補助あってだったけど、経験は経験だな」
「精霊を……いとも容易く屠った?」
刹那が信じられない、とばかりに言う。
「いやはや、岳志の力量は俺達が想定していたより数段上のレベルにあるようだ」
与一も呆れたように言う。
何度もの苦戦や敗戦。
その上に今の俺がある。
最初から俺はこうだったわけではない。
野球でも、戦闘でも。
中々わかってもらえないことで、それが軋轢を生む時もある。
「しかし、あいつはなにをしていたんだろう? 居場所、バレたんだよな? ここに、何かあるのか?」
刹那が、無言で歩き始めた。
十歩ほど進んで、地面を撫でる。
そして、呟いた。
「何かある、なんてものじゃないわ」
その声には珍しく、焦りが滲んでいた。
「府内に数個ある封印の一つ。かなり解析されている。けど、まだ機能している。それが、ここなんだわ。陰陽連に裏切り者。それも本部内勤の者。岳志の予測は確かだった」
「封印……? まさか」
与一はそう言って、言葉を失う。
沈黙が漂う。
紗理奈は不安げに与一を見上げる。
与一は、蒼白な表情で黙り込むばかりだ。
断罪する裁判長のように、刹那は告げた。
「安倍晴明の封印を形成する結界の一つ。それがこの地だわ」
そう、刹那は言った。
それはきっと、陰陽連の機密情報のはずだ。なにせ、六大名家にすら知らされていなかったのだから。
陰陽連に裏切り者がいる。
アリエルの言葉は、どうやら間違いなさそうだ。
続く




